「へんな会社」のつくり方 (NT2X)
近藤 淳也
翔泳社
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はてなブやはてなダイアリーなど魅力的なサービスを次々に開発していく「株式会社はてな」の裏側に迫ったのが本書「へんな会社の作り方」です。社内会議をネット上に公開するわ、ろくに履歴書を見ずに相手のブログを見て採用の判断を決めちゃう会社。Web2.0時代を象徴するような会社だ。GREEやモバゲーが世界を変えようとしている時、はてなは個人を変えている。そう思った。ちょっと古いけど、会社経営としても参考になる点が盛りだくさん。やっぱり仕事が好きでなくっちゃね…と思った。

はてなという会社は京都にある。元々は京都で創業したが、のちに東京に本社を移転。数年前に本社を創業の地「京都」に戻したそうです。はてな社長の近藤さん曰く、京都は開発するのに落ち着いている場所という事です。

本書は2006年出版という事でかなり時代的には遅れている印象がある。これを当時に読んでいたら間違いなく80点は超えていただろう。まだ、GREEの「釣りスタ」もモハゲーの「怪盗ロアイヤル」もなかった時代。この頃の最大の娯楽と言えば掲示板などでのコミニュケーションだったと記憶している。まだブログが世間一般に普及していなかった頃です。そんな時に時代の先端をいっていた企業がはてなだろう。とにかく、はてなの魅力はなんと言ってもユーザーとの関係がオープンな点だ。本書では「50%の完成度でリリースせよ」と書かれているが、とにかくリリースしてユーザーの要望や意見を元に素晴らしいサービスを作り上げようというのがはてなの考え方。はてなダがそうだし、はてなアイディアがそれに当たる。はてなブは今では世間一般に普及しているが、当時はまだITオタクの集まるサービスだったと記憶している。開発環境も独特だ。ペアプログラミングにフリーアドレス制、開発合宿など、まるで大学のサークルのようなのりで開発が展開される。はてなの行方はユーザーが決める。そう思わせるようなユーザー本位が開発がされている。

正直に僕の見解を述べるなら、はてなが目指しているのは「GREE」や「モハゲー」のような会社ではないという点です。限られた広告枠と限られた課金ユーザーでは遅かれ早かれ収益の限界というのが来てしまうでしょう。しかし、はてなが目指すべきゴール。正確に言うとゴールがないのかもしれない…は、ユーザーがサービスを心から楽しんでいる事だと思うのです。

はてなの近藤社長は「まっとうな意見が通る組織に」という題名でこう書いている。
その日は図書館に行ったのですが、図書館内の空調は28度に設定されていました。恐らく環境や空調費に配慮して少し高めに設定されているのでしょう。業を煮やしたある利用者が、カウンターに行って「温度設定を少し下げて欲しい」とお願いしました。ところが奥から館長のような人が出てきて「前例をつくると今後も温度を変更しないといけないから…」といって頑なに空調温度の変更を拒んでいます。

自分も一緒にお願いをしょうと思いましたが、しばらく会話を聞いていて分かったことは、ここで何を言ってもエアコンのスイッチボタンを(ポチ)と押して設定温度を「27度」にすることは敵わぬ願いなのだ、ということでした。一体館内にいる利用者や職員全員で汗を流しながら、何を必死で守っているのだろうと思ったのは言うまでもありません。
これは多くの大企業を陥ってる企業病ではないでしょうか。正しいことが正しく通らない場所。そんな場所に価値などありません。革新的な事ができるのは、いつも風通しの良い環境だと思っています。

はてなは本書出版から5年に大きな転換期を迎えました。はてな最高技術責任者の「伊藤直也氏」の退社です。正確に言うと、GREEへの転職という事ですが、CTOを失ったはてなに未来はあるのか悪雲がたれこめます。伊藤氏いわく、はてなは自分が望むようなスピードで進んでいなかったという事だそうです。それは的確であり的を得た発言だったのかもしれません。

はてなは変わらない一つのことは、絶えずユーザーと進化していく事でしょう。
ユーザーあるところに「はてな」あり。今後も良いサービスを提供して欲しいですね。

おわり。