第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)
又吉 直樹
幻冬舎
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アメトーークで「読書大好き芸人」の名称を手に入れた、お笑い芸人ピースの又吉さんがお勧めの小説を紹介するという、ちょっと独特な雰囲気を感じさせる1冊だ。はっきり言えば書評本ではない。冒頭、又吉さんはこんな言葉を書いている。
僕の役割は本の解説や批評ではありません。僕にそんな能力はありません。心血注いで書かれた作家様や、その作品に対して命を懸け心中覚悟で批判する書評家にも失礼だと思います。
確かに、書評本ではない。全体通して50冊ほどの本が紹介されているが、書評は最後の最後の数行程度。しかし、この本の最大の魅力はピース又吉という人間の千里眼にあるのだと思う。本に関連した自身のエピソードが紹介されているが、それが面白い。芸人のエッセイと言えば間違いなく、伊集院光の「のはなし」を思い出すが、その手のエッセイではない。悪と善が手を組んだような複雑な味わい。でも、読んだ後にはすっきり…といった感じだろうか。根っから暗いイメージを持つが、その千里眼はすごいものがあると思う。350mlのコーラとお特用500mlコーラが同じ値段で販売されていた時、350mlのコーラの方が美味しく感じるような不思議だ。
”人に優しくしたいと本気で思っているつもりが、人のために死ねるかどうか具体的に考え出すと怖くて怖くて仕方ない自分が嫌いだった。” ”読書という趣味を見つけたことにより僕の人生から退屈という概念が消えました。” ”気になる本は手に取り裏の紹介文を読み、帯文を読み、ページを開く。するとそこに宇宙が現れる。どんどん活字が大きく濃く強くなっていき雑音が遠退き異世界が拡がる。動悸がする” ”もっとくれもっとくれと指はページをめくる。「今だ」と思う。「この瞬間だ」と思う。”
根っからの読書家なのだろう。本の隅々から本のインクのような良い匂いが漂ってくるようだ。

少年時代、又吉少年は自分の鬱憤を秘密のノートに記していたそうだ。
そこには、同じ学校に複数いる直樹という名前についてだった。「もう直樹なんていらん!」その後の補足が面白い。
名前が無いと保険証やTSUTAYAの会員カードが作れないぞ。
芸人でネタ作りを担当している方は、何かしら内部に深い思いを持っているもんなんだな…と思った。
僕が文学に求める重要な要素の一つが、普段から漠然と感じてはいるが複雑すぎて言葉に出来なかったり、細か過ぎて把握しきれなかったり、スケールが大き過ぎて捉えきれないような感覚が的確な言葉に変えて抽出されることである。そのような発見の文章を読むと、感情の媒体として進化してきた言葉が本来の役割を存分に発揮できていることに感動する。多くの人が、自分との共通点を太宰文学に見出すのも太宰がその感覚に長けているからだろう。
これはわかる!僕はブログを通して文章というものを発表しているが、まだまだ未熟者。3流書評家を名乗っている。たぶん、向こうずっと3流だろう。自分の気持ちを言葉が代弁してくれた瞬間、その人その人にとって神様になるのかもしれない。それが又吉さんの太宰という存在なのだろう。アーティストが恋の歌を書いて「そうそう、それが言いたかったんだよ」と思う感覚に近いのかもしれない。それが又吉さんにとっての本という存在なのかもしれない。謎に包まれた学校の「落し物箱」の謎。お父さんの友達がトレイで発したひと言。自分の家が偶然にも太宰が住んでいた住所だったこと。誕生日会に登場した「ゴット」と呼ばれる謎の少年。「梅干を食べたムンクの顔」=略して「梅ム」のおばちゃんがいたり、又吉さんの思い出エピソードは豊富だ。

ゲラゲラではない。
クスクスにやや近い笑い。

それが又吉ワールドだろう。本が好きな方も、そうでない方も。又吉さん自身が語っているが「若い人」に読んでほしい本が厳選されている。何よりエッセイか面白い。この内容だったら1500円だしても良い。それが500円ちょっとで買えるのだろからお買い得だろう。