あの会社は何故、儲かるのか。そんな企業を見た事はないでしょうか?今の旬では言えば、「GREE」や「モバゲー」でしょう。あれは基本無料でアイテム課金で少数のヘビーユーザーによる課金で収益を得ています。開発が少人数である事、そしてサーバー代と宣伝費以外は殆ど費用がかからない。粗利益率50%というのだから驚きです。さて、身近な会社の中には「あの会社はなんで儲かっているのだろう?」と首を傾げてしまう例が多々あります。本書「なぜ、あの会社は儲かるのか?」は、身近な例から会計やビジネスの裏側を探って、より経済を身近に感じてもらおうという趣旨の本です。

例えば、ホテルの老舗「帝国ホテル」と「東横イン」。同じホテルでありながら、ビジネスモデルがまるで違う事が分かります。売り上げ的に見れば「帝国ホテル」の方が高いのですが、利益は「東横イン」が2倍近くも高い。帝国ホテルがお客さんのために、レストランや飲食店に多くの経営資源を注ぐ一方で、泊まるための部屋、ビシネスマンのために用意した部屋を武器にした東横インは、朝食無料、朝刊無料のサービスなどのサービスはあるものの、帝国ホテルよりも高収益の企業となっています。身近な例では、ユニクロが挙げられるでしょう。定価1900円のフリースを中国で生産させ、大量に売った。一方で、その原価は300円だったそうです。1つの商品を自社で大量生産し、在庫のリスクを抱える。一方で多品種、少量販売を中心とする、百貨店とはビジネスモデルが差別化されています。

個人的に面白かったのが、携帯キャリアであるドコモに関する記述です。
ドコモの2005年の営業利益は約8300億円だが、8300億円は通信サービス売り上げ4兆3000億円の19%にあたる。つまり現状のコスト構造が変わらなず、通信サービス料が19%値下がりすれば、その時点で営業赤字になることになる。(売り上げが19%、8300億円下がれば営業利益はゼロになる計算。)
携帯業界で圧倒的な契約者を誇るドコモであったも、ちょっとの波風で潰れてしまう可能性があるのです。
儲けたお金のほとんどを現金で持っているのが任天堂である。任天堂のバランスシートを見る場合、2つの数値に注目してみたい。一つは「資産合計」である。任天堂の持っている資産を合計すると、約1兆1600億円になる。その内訳を見ると、現預金が8121億円ある。何んと、資産1兆1600億円のうち、その70%が現預金である。過去から時系列で見ても、ほとんど減っていない。この数字を見て、ビックリしないだろうか?

いったいどうして、こんなにたくさんの現金を持ち続けているのだろうか?任天堂は誰が知るゲームの会社である。任天堂の山内・前社長は、口癖のよう「ゲームは所詮はいらないもの」と語っていた。生活必需品と違って、安定的な需要が見込めない不安定な事業がゲームである。ゲームがヒットするかどうかは、運任せのようなところがあり、流行や人気に翻弄されるのだ。(中略)したがって山内・前社長はによれば、「リスクに備えるためにも、余計なものを買ったり投資したりせず、現金で持つのがベスト」と考えたのだろう。
任天堂の現金の保有量の多さは有名ですよね。ゲームが不安定、だから最低でも数年は会社を維持するための現金が必要。そう考えた結果が、任天堂の預金の多さなのかもしれません。

ちらっとしか紹介していませんが、企業によってビジネスモデルは様々です。全ての企業が同じベクトルで動いているかも分からない。本書「なぜ、あの会社は儲かっているのか?」は、企業の儲けの仕組みを会計や財務、ビジネスモデルなどを比較して紹介している。この本の凄さは、これだけお金の裏側を扱った本なのに、金の嫌な臭いがしないところにある。某IT経営者のように、テレビ局や企業を次々に買収して大きくなるのではなく、ちゃんと核とした事業を持っている企業が紹介されている。ある意味で健全だ。まったとうなビジネス書といってもいい。この読んだからといって、すぐ自社の戦略に影響を与えるかは疑問だが、やはり日ごろから親しんだ会社の裏側、儲けのカラクリを知るのは面白い。経営者が読んでも参考になるし、投資家が読んでも参考になると思う。本書発売が2005年とちょっと古いですが、とても参考になる本だと思います。