ユニクロの勢いが止まらない。日本のファッションブランドとして初めて売り上げ高1兆円を突破し、2020年までに売り上げ高5兆円を超える目標に向け中国や新興国での出店を加速させている。ユニクロと言えば「フリース」「ヒートテック」などが挙げられるが、経済面、ビジネスマンにとっては社長である柳井正氏の存在も忘れてはならない。IT界の孫正義、服の柳井正と言われるほど有名だ。世間的には、日本で一番お金を持っている人…という認識があるかもしれない。

本書「現実を視よ」は、前書「成功は1日で捨て去れ」から約3年の月日を経て、柳井氏がユニクロの経営で実感した世界と日本の現実から、政治、若者まで幅広く書かれている。この本で一貫している事は、タイトルにもあるように「現実を身よ」の一言に尽きると思います。誰もが目先の事、現実には目を向けたくないもの。しかし、日本はGDPで中国に抜かれ、足元を見れば「シャープ」「パナソニック」「ソニー」など製造業は軒並み多額の赤字を計上している。政治に目を向ければ、民主党の混迷政治のおかけで、政治は無関心の対象となってしまった。政治にも経済にも期待ではない、そんな現実に活を入れてくれるのが本書「現実を身よ」だと思います。

柳井氏の考えの背景には「成長しなければ、即死する」という考えがあるそうです。成長する事こそ、生きるという事。ユニクロが世界、特にアジアで急速な出店攻勢を背景にも、現代のビジネスにおいて生き残るのはナンバーワン。多くてもナンバースリーまでしか生きられないという思いがあるそうです。ユニクロの英語公用化は、一部で批判の対象にもなっていますが、世界で戦うため、その戦略の一環として考えれば、とても合理的と考えられます。しかし、柳井社長は日本を捨てはわけではないようです。世界に出る事で見える、日本の良さ。それを再認識する場所にもなっているようです。

必ずしもグローバルに出る事が正解だとは思いませんが、世界に挑戦する事で見えてくるものはあると思います。過激な発言の裏で「優しさ」という一面も垣間見る事ができます。柳井氏は政治の専門家ではない、大前研一氏の共著「この国を出よ」でもそう語っていましたが、やはり経営者、日本人として強く抱く思いがあるようです。「この本を書くことは、一経営者としては正しい判断ではないかもしれない。だが、書かずにはいれらない。」と語っています。

日本が世界の中で上位を位置していると、日本人の多くが思っている。中国人よりは上、というのが日本人の共通認識なのではないでしょうか。しかし、現実に目を向ければ、日本は下降曲線を綺麗に描いているようにも思えます。
怖い話をしょう。
ほとんどの日本人は、自分のことをまあまあの金持ちだと思っている。日本では平均的かもしれないけど、世界のなかではかなり上。アジアだけに限定すれば、自分の生活レベルはトップクラスだろう…。(中略)これは、まったくの間違いである。(中略)アジアにおいても、中国や東南アジアのホワイトカラーは、将来に不安を抱えてコーヒー一杯飲むにも財布の中身を気にする日本のビジネスパーソンより、経済的にも精神的にも、豊かな日常を送っている。
日本人はいつの頃からか、競争する事、上にあがるという事を拒否してきた。時を戻せば、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」で描かれていた頃の世界は誰もが上を目指していた。映画の話になると、堤真一演じる鈴木オートの鈴木則文は、自分の会社を世界を代表する自動車会社にする夢がありました。この頃に創業もしくは、活躍していた経営者。それこそ、ソニーの盛田さんとか、本田の本田宗一郎さんだったり、現パナソニックの松下幸之助さんだったり、誰もが夢を抱いていました。しかし、いつの頃からか、人は夢を追わなくなり、現状を維持しょうとしてきました。

その一方で現代の失われた20年の間にも一度だけ「起業ブーム」が起こりました。我先にとITやベンチャー企業が作られた2000年代前半の頃です。。本書の中では「マネーゲームに興じた某IT起業家」と題して書かれています。彼らはマネーゲームを行っただけで、真の企業家ではないと指摘しています。
ベンチャー企業を立ち上げて、数年でマザーズやジャスダックに上場し、いとも簡単に莫大なお金を手にする彼らを、世の中は資本主義の申し子のように扱った。とくにスポットライトを浴びたのが、有名な某IT起業家。(中略)何より彼を有名にしたのは、自身の本のタイトルにもなっている「稼ぐが勝ち」という考え方である。
「金を持っているやつが偉い」
「誤解を恐れずに言えば、人の心はお金で買えるのです」

要するに、当時、彼が言っていたのはそういこと。そうした考え方に同調する若者も少なくなかった。しかし、彼がメディアに登場しはじめたころから、私は彼を経営者としていっさい認めてこなかった。なぜなら彼らは、資本主義を、明らかに自分の都合のいいように解釈していたからである。(中略)私が知っているかぎり、いまの中国や東南アジアで活躍している起業家に、彼のようなタイプはいない。お金さえあればなんでもできる、己さえよければいいという考え方では、たとえ一時はわが世の春を謳歌しても、長くは続かない。それはどの時代も、どの国でも同様である。
夢を失いかけている日本。最後に、柳井社長からの若者への激励を紹介してみます。
若い人へ。
もしかしたら、君はいま、将来にタイトル不安に怯え、言いようのない閉塞感に苛まれているかもしれない。しかし、夢や志まで失ってはいけない。敗戦直後に比べれば、いまの日本はよほど豊かだし、恵まれていると言えるのだから…。

でもほんとうは、昔と比べてどうとか、そんな話はどうでもいい。あなたの可能性は、あなたが見つけ出すしかない。もしそれが今の日本でみつからないというなら、どこかの国で探せばいい。

活路は世界にある!
目の前の事から逃げることは簡単だけれども、そこから逃げてはならない。そう感じました。政治や社会に対するアプローチに関しては、大前研一氏似たような臭いを感じます。柳井社長の「1勝9敗」はやや経営的な内容寄りでしたが、本書はとても読み易いと思います。