本書は、建築家である隈研吾氏の仕事ぶりと建築に対する思いが綴られている。世界一周チケットを手に世界を駆け巡る日本を代表する建築家。その仕事は最近では歌舞伎座の立て替えか有名だ。しかし、ここ10年間で東京の仕事が無いというのは驚きだ。建築と言えば、最近は「工場で組み立てる」といった建築も主流になりつつあり、現場では組み合わせるだけ。昔の木造建築のように、大工の名人と出会う機会は減った。そんな中でもがき苦しみ前に進んでいる。その葛藤と現実が本書を彩っている。



まず、隈氏はコンクリート建築に否定的な一面を見せている。
コンクリートが優れている点は構造が簡単だ。という事だそうだ。現場でベニヤ板を組み合わせてコンクリートを流し込めばいい。しかし、それには落とし穴もあって構造の中がすかすかであったり、変な話、ねこの死骸が入っていても不思議ではない。そんな中で隈氏はコンクリートの常識を打ち破り、竹で建物を作ったりする。
自問への解答を見つけることは、いまだ途上ですが、「コンクリートの時間」と、「木造の時間」ということをずっと考えています。コンクリートの時間は、コンクリートが固まることによって完結します。コンクリートに不老不死のイメージがあるからこそ、資産として永久化されるような気になります。それに対して木造の時間は、建物が完成してからスタートします。完成した後も、メンテナンスを続けていかないと、腐って土に戻ってしまう。面倒に違いはないけれど、メンテナンスを怠らなければ、コンクリートよりもはるかに長い寿命を得ます。


建築家として24時間ずっと建物の事を考える。眠りついて、起きる頃に汗をかいているという。「嫌いな建築は作りたくない」という言葉もあるように。ビジネスと理想の狭間を表裏一体で実行している。理想は「施主」と「建築家」のともだおれ、という事だそうだが、現代を生きる建築家として、とても堅実的で刺激的だろう。