本書は、ソニーの元CEOである出井さんがその10年間の格闘と迷いについて綴った本だ。最近のソニーは平井体制に代わり少し希望の光が見えたのかもしれない。そんなソニーの歴史の中で始めてプロフェッショナル経営者、つまり技術職ではない人間としてCEOに抜擢された。「自由闊達なる理想工場の創設」というのが盛田氏始めとするソニー創業者の言葉だが、正直に言うと、本書から技術や製品に対する愛着は感じられない。これはスティーブ・ジョブスなどとは違った部分だろう。良い意味でも悪い意味でもなく、出井さんは経営者だったのだろう。


売り上げを増やす、利益を増やす。

初期のソニーが新製品で鼻を明かそうと思っていたのに対して、いかに利益を上げるか、そして円滑な組織作りをするのか。出井さんがCEOに就任したのが95年。「デジタル・ドリーム・キッズ」という言葉もあるが、その間に「プレイスーテション」やテレビの「WEGA」や「VAIO」のヒットがあった。売り上げも4兆円〜7兆円に増えた。ただ、その間にソニーらしい、まぁ確かにハードの時代からソフトの時代に変わったのも事実だ。

ある意味で出井さんは、ハードのソニーからソフトのソニーへの橋渡しを行ったのかもしれない。

ただ、やはり僕らの知っているソニーは「うわわわっっっ!」という驚きがあった。しかし、今のソニー製品には特別な驚きは感じられない。本書ではソニーがアップルを買収していのかもしれない?という話もあるが、もしスティーブ・ジョブズがソニーのCEOになっていたら面白かったのかもしれない。

本書で興味深いのは、やはり本書のタイトルにもあるように「迷いと決断」だったりする。やはり兆円企業ともなると、1つの選択が会社の運命そのものを狂わせる事がある。迷いはあったとしても、決して、その顔を外に漏らす事できない。出井さんはCEO時代に夜も眠れない、睡眠導入剤を飲む事も増えていたそうだ。

それだけの重圧。色々な批判もあるだろうけど、少なくとも適当に仕事をしていたようには思えない。絶頂期と衰退期を経験して、出した結論がCEOの辞任という決断だった。迷いと決断、最終的に自分がソニーを去る事を選んだわけだ。ある意味で本書は迷いでもあり決断でもあるが、辞任後の出井さんの表情は明るい。

ただ一つ間違いがあったとすれば、後継者としてストリンガー氏を選んだ事だろう。

本書の中でメディア王のルパード・マードック氏の発言として「ストリンガーは辞めておけ」という部分があるが、ある意味で一番賢明な判断をしていたのは、マードック氏だったのかもしれない。

その後のソニーは、皆さんの知っている通りです。