ソニーの出井氏が書いた本。本書が出版されたのが2007年、世界的にもリーマンショック以前で新興国の好景気に湧いていた頃だ。今とは少し事情が違うのかもしれない。出井氏はソニーのCEO時代も含めて、経済誌などでは「最悪の経営者」と知られているようだが、本書を読む限りでは言っている事は正論だと思った。


「R(リアル)」と「V(バーチャル)」をかけるという言葉が象徴されるが、出井氏がソニーのCEO時代にも言っていた事だが、時代は確実にリアルの中にバーチャルが溶け込む。逆の意味ではバーチャルの中にリアルが溶け込むと言っても良い。日本人が抱える問題を「ABCD」で、つまり「A」=高齢化、「B」=官僚主義、「C」=閉鎖社会、「D」=国内中心主義だという。全てが半導体に切り替わるという発言は少しおおげさかもしれないが、出井氏の中には冒頭で言った「RリアルとVバーチャル」の融合した世界が見えているようだ。映画を引用しながら「自民党と民主党はなくなる」といった事も綴るが、何故か嫌な気持ちにはならない。ネットという観念の部分では出井氏は時代の先を行っていたのかもしれない。

CEOとしての手腕は別として、今現在、ネットとリアルは急速に近づきつつある。

映画「マトリックス」の世界ではないけど、確実に垣根は無くなりつつあるのだ。その点で言えば、ネットが普及する中でハード莫大な利益を得る米アップルは少し古いのかもしれない。出井氏の中にはネットとバーチャルに対する並々ならぬ拘りがあるのだろう。ただ正直に言えば、スマホやテレビでサムスンなどに遅れをとった原因が出井氏に無かったとは言えない。出井氏の手腕が否定される部分があるとすれば、CEO時代にリアルとネットを融合した画期的な商品を生み出せなかった事だろう。それが、アップルのiPodなわけだが、、。結局、言っている事は正論だし、時代の先端を言っている。ネットがリアルを飲み込むのか?という議論が中心の中で、融合という新しい価値観を生んでいる。とても簡単な文章で読みやすい。

後は個人が出井氏をどう判断するか?だろう。個人的にはおもしろい本だった。興味深いです。