三橋貴明氏の本は何冊か読んでいる。基本的に氏の主張には賛同する部分もあるが、批判的な部分もある。ただ、著書を読む限りでは御用学者のような偏った意見ではなくデータに基づいた客観的な意見や主張は共感できる。例えば、「デフレの正体」の藻谷浩介氏を真っ向から批判する。デフレの原因は人口減少だという氏の主張に対して、データを用いて「ロシアなどは人口が減っているのにデフレではない」と真っ向から否定する。その主張に感銘を受けた。池上彰氏も否定するのだから、これは面白くないわけがない。

本書はムック形式で、図解たっぷりに紹介する。
たぶん、1時間もあれば読める内容だ。初心者でも読み易いだろう。


出版業界では、池上彰さんや浜矩子さんが売れ筋なわけだが、特に浜矩子氏の場合、1ドルが50円になると主張していたのだから、これは興味深い話だ。本書に過激な発言はない。内服的に過激だとは言えるが、全てのにおいてデータを元に発言されている。基本的に三橋氏の本を数冊読んでいれば、特に新しい事は無いという事は言える。情勢によって意見をコロコロ変える学者よりは100倍いいだろう。なので、既に三橋氏の本を読んでいる方は、お金にものすご〜く余裕があるとか、相当暇な場合を除いて読む必要はないだろう。

ただ、本書の魅力は何か?と言えば、確かにデータに基づいた発言なわけだが、本書の最大の魅力であり、買う価値があると説明するとすれば、

アベノミクスを100%評価していない事。


だろう。

多くの人はアベノミクスに対して三橋氏は100%賛成だと思っているが、それは三本の矢で言う「第一の矢」「第二の矢」までだ。例えば、日銀が国債を買い取ってお金を供給する。デフレを脱却し、ゆるやかなインフレ(正確に言うと2%のインフレ目標)に向かうという事に対しては、100%アベノミクスを評価している。なぜ、三本目の矢に批判的になるかというと、三橋氏の主張は全体に的に、デフレが悪でインフレに持ち込めば景気が回復するという主張だからだ。自殺が増えるのも、賃金が上がらないのもデフレのせい。実際、データを見れば橋本政権が緊縮財政が行った1998年頃から自殺率は上昇している。

日本にとって大切なのは、まずデフレからの脱却だという。
第三の矢、成長戦略がデフレを助長するのではないか?という危惧がある。

確かに客観的であるが、ある意味で正しずきるという点もどうかと思った。本書の中で三橋氏は「日本のお金を海外に流失させないために、原発の再稼働は必要」だと言っている。確かにそうかもしれないが、やはりこれだけ技術立国の日本なのだから、その辺に夢というか希望的観測があっても良かったのかもしれない。最近、さわかみファンドのさわかみさんの本を読んだが、そこには「政府は新エネルギーに30兆円つぎ込むくらい必要だ」と書かれていた。それぐらい期待感を持たせてもいいのではないか?氏が言うには、自然エネルギーは蓄電池の技術がないため実現不可能だと書かれている。ある意味で三橋氏は批評家なんだろう。言うのは易し、行うは難しという事なのかもしれない。もっと夢があっても良かったと思った。

ただ、それを差し引いて、三橋氏の本を初めて読む読者にはベストだろう。ただ、怖いのはこれ1冊だけ読んで知ったかぶりする事だろう。この本を読んで関連図書も読んで見る。この本を読んで、「デフレの正体」、「池上彰」、「浜矩子」を読んでも面白いのかもしれない。