シンガポールという言葉を聞いて、何を思うだろう?真っ先に「マーライオン」良くて船の乗ったホテル「マリーナベイサンズ」だと思います。しかし。それは一面に過ぎない。シンガポールは既に1人辺りのGDPで日本を抜き、GDPの成長率は10%を越える。株取引にかかる税金は無し。そして、世界最低水準の法人税。日本の富裕層も大挙して移住を決めている。そんなシンガポールを25年に渡って率いてきた男、それが本書の主役であるリー・クアンユーその人。現在は首相の座を辞して、息子のリー・シェンロンさんがシンガポールの首相を努めている。一見すると、順風満帆に見えるシンガポールであるけれど、実はそこには絶えず危機感がある。

シンガポール自体、マレーシアから追い出された形で独立した過去がある。シンガポール一番の悩みは「水」だったりする。国土が東京23区程度の広さしかないため、水を貯めるダムを建設する事ができない。水の多くを隣国マレーシアから輸入しているが、実はマレーシアとは仲が悪い。そのために下水を飲料水として再利用する計画が最大の国家プロジェクト。

そして、本書が面白い点は勿論、リー・クアンユーその人の生の声が聞ける点である。やはり国家を率いた男という事で、その洞察力や統率力は並ではない。国家運営から家族まで、これ1冊読めば全てが分かるといっても過言ではない。自伝でもビジネスでもなくインタビュー集なのです。

本書で一番興味深かった点は、シンガポール第一党でリー・クアンユーが創設したPAP(人民行動党)だったりする。つまる所、リー・クアンユーは「俺たちは良い政治をするから国家が成立するのだ。野党など存在する必要もない」という趣旨。逆の意味では、経済成長してPAPが第一党であり続ける事が重要なのです。そのために、国家中からエリートを抜擢する。民間トップ並の報酬を払う。絶えず、国家として存亡の危機に瀕してきたからこその選択。ある意味で合理的な考え。逆の意味では、優秀な人材が枯渇する事が国家として、水の次に重要な問題だったりする。一部では移民と原住民との間で揉めごとも起きるらしいけど、国家運営としてリー・クアンユーが行っている事は筋が通っている。

ある意味で必要と偶然の重なり、それが面白いと思いました。
300ページは厚いけど、政治に興味があれば楽しめると思います。