Amazonで「理系の論文だ」というコメントを読みましたけど、まさにその通りの作品だと思います。コンテンツとは何か?という事を、ジブリのプロデューサー見習いを通して思った事をまとめた本です。ジブリの本か?と言われれば、どちらか言えばコンテンツのあり方を語るという本だと思います。

●コンテンツの密度。

これは、本書では「主観的情報量」「客観的情報量」という言葉で表現されています。一見すると、アニメやコンテンツの密度は大きいほうがいい。そう思うけれど、特に宮崎駿監督作品に関しては、情報密度が薄い方がいいのではないか?という事が綴ってあるわけです。例えば、最近では3DCGの作品も増えて、情報という密度は濃くなったけど、概してそれが評価されているのか?というと答えは違うわけです。最近のアニメがヒットしない理由として、情報密度が高すぎるのではないか、というのが川上さんの考えです。

●完璧なものは評価されない。

これは面白かった話ですが、ドワンゴの基礎を作った着メロ事業。ドワンゴが他社との差別化として選んだ方法は音大生を活用して他社よりも完璧な音を追求する事だったそうです。しかし、実際に配信してもメインターゲットであるティーンから支持されなかった。音質では負けていない、実は女子高生たちは音が悪くても大きい音。しかも音割れでも構わないから音のデカい物を欲していたそうです。一部では高級ヘッドフォンやイヤフォンが売れているけれど、大半の人は音にそれほど興味が無いという実態を表しています。で、現代の話に戻ると、最近は3DCGのように情報量は膨大になって完成度は高いけれど、実はそれは消費者にとっては過剰スペックなのではないか?という事です。

●キャラクターは貞本へ。

新世紀エヴァンゲリオン。大半の人に人気があるのがヒロインである綾波レイですが、実は新劇場版になって、ライバルのアスカ人気の方が強くなったのではないか。という話があります。それは何故か?と言われると、テレビ放送当時は綾波レイは謎の存在であった。でもテレビ放送終了と同時に、そこに謎は無くなってしまった。確かに、まだ完結してない新劇場版には謎が残されてますが、それよりも素朴な存在であるアスカに対するユーザーの人気が集まりつつあるそうです。

で、このキャラクターを考えている人が貞本さんという人なんですが、最近のアニメ等のキャラクターが貞本デザインに似ているという指摘があります。それは川上さんは「ニコニコ哲学」という本でも言ってますが、ある程度、人が好きなものは似ている。これは本書にも書かれている小説投稿サイトの例もそうですが、人気上位は似てしまう傾向がある。結果的にそれが全体を陳腐化されてしまう危惧があるというわけですね。

●ビーイング長戸大幸の話。

これも面白かったですね。ビーイングと言えば、B’zとかZARDなどで有名ですが、90年代後半を筆頭にヒットチャートを独占した理由として、創業者である長戸大幸氏の狙いがあったそうです。曰く、歌手の素質は何で決まるのか?それは声質でも奇麗な歌声ではなく、歌詞をはっきりと伝える音量だと言います。実際、90年代のビーイングでは他社レーベルと比較してボーカルの声が高めに設定されていたそうです。これも冒頭の話に似てますが、殆どの人それほど知識もこだわりもないわけです。

ジブリが売れ続ける理由、そしてコンテンツのあり方という点で本書は面白かったです。