ドワンゴの川上さんが最近出版した「鈴木さんにも分かるネットの未来」がとにかく凄いです。たぶんここ数年に読んだ本でも上位ですし、今年の中では確実にTOP3に入る名著です。糸井重里さんの「インターネット的」が黎明期のネットを語った名著であるとすれば、コンテンツやネットとリアルの未来を語ったものが本書です。あっ余談ですが、本書を100点満点で評価するとすれば、94点です。(※いつもの恒例です。)

●ネット原住民と対立構造。

ネット黎明期におけるネットは特別な存在でした。それこそパソコンが家にあってネットに繋がっている。昔で言うパソコン通信の時代は特別な存在であったわけです。しかし、2015年の現在を見ると自宅にネット回線がある事は当たり前で、逆にテレビが家に無いのが今の若者の姿です。

誰もが簡単にネットに繋がれる。この事によって、ネットでは「ネット原住民」と「新規ユーザー」の間で対立が起こっていると言います。よくネットは悪であるという言論を語る学者やコメンテーターもいますが、ネット原住民と新規ユーザー、特に若い世代の間では意見が統一されていない事が現実です。2ちゃんねるも噂では割と年齢性の高い方が利用しているそうです。

リア充という言葉がネットで話題になりましたが、ネット原住民はネットがリアルなのに対して、最近のユーザーはリアルがネットでという現象もあるようです。

●コンテンツには無料になるのか?

これはクリスアンダーソン「FREE」の中にあったアトムとビット。つまりコンテンツは無料になりたがっている話に由来します。ネットでコンテンツが無料化する背景としてコンテンツの複製が無料だから。という説があります。ただ、川上さんはコンテンツの無料化には否定的な意見を述べています。つまり無料化の収益の行方は広告による広告収入であって、その場合PVが重要になる。川上さんは以前からPVによる広告に懐疑的ですが、つまりは中身は関係なく広告がクリックさればいいという話になってしまう。

川上さんの話として、制作費100万円のコンテンツに対して利益率が50%であれば200万円。10%であれば1000万円稼がないと費用が回収できない。ならば、最初から100万円貰った方がいいのでは?と語っています。

じゃあコンテンツの価値は何で決まるのか?というと、それは向こう側の良い値だと言います。例えば、CDは複製コストがレコード時代に比べると安価にはなったものの、それ以前と比べて大きく下落していないどころか、逆に高くなった。それが今でもスタンダードになっています。これは任天堂モデルもそうですが、大量に売れればファミコンのROMの原価は下がったはずなのに、任天堂はソフトの価格を下げなかった。つまりは消費者が満足すれば価格は関係ないわけです。

じゃあデジタルコンテンツの価格が下がっている原因は何か?というと、それは違法配信の影響であって、違法配信がなければCDと同等の価格で曲を売る事できたのではないか、、という川上さんの話。

●テレビの未来。

簡単に言うとテレビの未来は以下のようになると言います。

1段階:人間がテレビを見る時間よりもインターネットを見る時間の方が長くなる。テレビ端末とネット端末が併存し、消費者は両方とも所有する。
2段階:テレビ番組はネット端末の一機能になる。テレビ端末とネット端末が融合してネットテレビになる。
3段階:テレビ番組の伝送路が放送波ではなくインターネットに置き換わる。テレビがなくなり、ネットテレビを含むネット端末だけになる。

ややこしいので簡単に要約すると、、

・2015年現在、10Gbpsのネット回線を確保するのに月額1000万円かかる。1人あたり1Mbpsというアナログ放送並みの画質なら1万人が同視聴できる。
・スカパーの契約者から計算すると1チャンネルあたりの同時視聴は5000人程度なので衛星放送ではなくネット放送でも対応できる。
・もし全ての放送をネット配信で行う場合、アナログ放送並みの画質なら約30Tbps。現在のネットの1ヶ月のトラフィック量は3.6Tbps。日本のネットの通信量は年間で3割増えているから計算すると、10年で10倍。14年で30倍になる。これにより、計算上は15年〜20年以内にはネットで全ての放送を行う事が可能になる。

テレビはネットに置き換わるというのではないか?という川上さんの話です。

●機械知性と集合知。

これは本書特に面白かった部分です。
ネットのメリットとして集合知というものが挙げられます。つまりは、「3人いれば文殊の知恵」ではあれませんが、多数の人が参加する事によって知識はより高度になっていくという主張です。Wikipediaがそうですが、その辺に関して川上さんは否定的なんですよね。例えば、それは本書ではCPUの話に例えてますが、CPUのコアが増えた事によって処理能力が上がるのか?というと、必ずしもそうではない。人間も同じで、人数が増えたから高い結果が出るわけでない。逆に多人数になる事によって、能率は悪くなり出される結果のレベルも低くなると、、。

結果的に、1人の人間が権限と知識を持って行動する事が正しいというのが川上さんの主張です。

ただ、ネットで何故に集合知を賞賛するのか?というと、それは効率が良くなった。つまり、現実世界ではできないようなスピードで処理する(ように見える)事によって、集合知が良いと思われているというわけです。

●リアルとネット

コンテンツの未来とか他にも面白い話があるのですが、詳細は本書を手にとって頂くとして、最後に川上さんはこんな言葉で本書を締めくくっています。
ネットとリアルの融合とは、リアルの世界から見たバーチャルな人間の想像とネット世界がひとつになる過程であり、人間が住む世界としてのリアルとネットが一つになる過程でもある、そういうふうに理解できるのではないでしょうか
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糸井さんの「インターネット的」と合わせて読むと最強です。