ポプラ新書という事で期待しないで読んでみましたが、思いのほか良かったです。ガツト来る話はなかったけれど、丁寧に出版、特に書店業界が抱える問題を扱っています。ただね、これは後で話ますが、それが正解なのか不正解なのかは今のボクには分かりません。


●本屋大賞は本屋の不満から始まった。

基本的に新書って冒頭が大事ですよね。新書ブームの先駆け「さおだけ屋はなぜつぶれないのか」も、冒頭にちょっこっと、さおだけ屋の話が書いてあって殆どは会計の本でした。(おい全部さおだけ屋の話じゃないのかよっ!とっつこんだあの日が懐かしい。)冒頭で本書は、本屋大賞を例に出版界が抱える問題を提示します。

まず、本屋大賞にノミネートされた本。それを書店に勤める社員、そしてパートやアルバイトが投票権を持つというのが本屋大賞のルールですが、初期の頃は書店員ですらノミネート作品を手に入れる事が難しかった。ここに出版界が抱える問題があります。

現在、全国には1万3000店鋪。ピーク時の半分程度になっているという事は世間でも良く騒がれている。それは、Amazonや都市部のメガ書店などの登場も影響する事だけど、まず最近の出版事情。

大体1年を365日と過程すると、1日に発売される本の数は200点だと言われています。当然、殆どの本は書店に並ばないわけですが、それに加えて1冊あたりの出版部数が減っている。大体、平均すると初版は1000部〜3000部。これでも多いほうだという。

つまりは、1万店鋪のうちその本を並べられるのは1店鋪1冊としても1000店鋪〜3000店鋪。殆どの書店には並ばないという事になります。例えば、村上春樹「1Q84」にしても、大型書店ではそれこそタワーのように積んであるけれど、小規模の書店では1冊〜数冊くれば良いほうだという。

●出版社の錬金術。

これは別の本に書いてあった事ですが、このカラクリは取次ぎにあると言います。例えば、Aという出版社がAという本を出すとする。1冊1000円で1000部で100万円。これが取次ぎから売り上げに関わらず前金で入ってくる。例えば、500部しか売れなければ、50万円を返金するのが普通ですが、出版社Aはそれを支払いたくないので、新たにBという本を出版する。

すると、また100万円が入って来て、出版している間は手元にキャッシュが維持される仕組みになっているわけです。これが大量に本が出版される理由です。

●地方の本屋事情に欠かせない存在がブックオフと図書館とAmazon。

都心の方は想像でできないでしょうが、地方では本当に新刊を手に入れる事が難しい。当然、人気の本は近所の小規模の本屋には置いてない。注文しても2週間というのが当たり前だった。そこに登場したのが1990年のブックオフです。

これは地方にとっては衝撃で、近所の書店には無い本が大量にしかも安価に提供されている。そして、Amazonの登場によって、どこに居ても欲しい本が手に入るようになった。そして、最後のキーが図書館。昔とは違って、予約すれば最新の本がタダで届く。

この複合的な要因が書店や出版界の疲弊を招いているとも言えるわけです。

出版界はよく読書離れを売り上げの原因にするけれど、データによれば読書量も購入金額も大きな変化はない。たぶん、この問題は読者の問題ではなく、本屋と出版界の問題なのだろう。読者はただ面白い本が読みたい、それはAmazonであっても電子書籍であっても構わない。

さて本屋で本を買う理由はなんだろう?