素晴らしい。稲盛和夫氏の「生き方」が20世紀型労働の理想とするなら本書は21世紀型労働の理想だ。お金や権力ではなく、ただ自分がやりたい事を貫くということ。そこにはその昔、財宝を求めて旅をした大航海時代のようなロマンがある。本書が出版されたのが2005年。まだGREEが携帯ゲームで社会現象を巻き起こす前というのが残念だ。もし本書が今年発表されていたら、名著になった事は間違いないでしょう。新しい労働の仕方、新しい社会へ。
GREEといえば今やモバゲーと市場を二分する携帯ソーシャルゲームサイトの筆頭だ。年間628億円も売り上げ、今や本社はIT業界の聖地である六本木ヒルズにあるらしい。大ヒットゲーム「釣りスタ」、最近では「ドリランド」のCMがお茶の間に流れている。ナイナイさんやベッキーさんのCMも人気を集めました。皆さん一度はご覧になった事があるでしょう。そんな、GREEの田中良和社長がGREE開設までの経緯を語ったのが本書「僕が六本木に会社をつくるまで」です。
田中さんは小学校の頃にファミコンに触れ熱狂的なゲームオタクだったらしい。ゲームの最新情報を得るために親にねだって新聞を日経新聞に変えてしまったほど筋かね入りのゲームオタクだった。しかし、ゲーム熱は一気に冷める事になる。それがインターネットとの出会いだったと田中社長は説明する。自分がやりたい事はゲームでは達成できないと自分が目指す方向を一転します。田中氏は3つの方程式を使ってこう説明します。
1.「なんとなく毎日が過ぎるのを待っている人生ではなく、自分のやりたいことがあって、そのために過している人生でありたい。」
2.「自分のやりたいことを仕事にしなかったら、人生の多くを使う仕事の時間は、毎日つまらない、本当にやりたいことを仕事にすることで100%自分がやりたいことをできる人生にしたい」
3.「僕は、人生をお金に変えるマシーンでもないが、お金がないとやりたいこともできない」
つまり、
「やりたいことがあって、それが仕事になって、それでお金が稼げるようになる」
会社に従属する忠誠を誓う。それが旧来の仕事の理想形だった。しかし時代は変わった。それぞれが個として確立し自分の好きな事に没頭する時代。例えるならヒューマン2.0の世界がやってきている。時代は本当に変わったのだと思う。ネットベンチャーと言われる企業は社会に革命をもたらした、その次に仕事に革命をもたらしたと思う。好きな事をやって収入を得る仕事が誕生したのだ。旧来世代のおじさんにはちょっと理解できないと思う。我々、若者ならその凄さを理解できるし、GREEやモバゲーのヒットでそれを原体験している。本書は悪い意味では、会社設立までの経緯が紹介されているにすぎない。しかし、その一つ一つの言葉が熱いのだ。「社会を変えてやろう!」そういう意思がひしひし伝わってくる。会社を次々に買収、社名を買収企業の名前にしたホリエモンや巧みな資金調達を行って成長を続ける孫正義氏とは少し違う。焦点がコンテンツにあるのだ。コンテンツが日本を変え将来的には世界を変える。世界中の人に「釣りスタ」がヒットするかは分からないが、GREEの田中社長曰く将来的には海外売り上げ比率を8割にするそうだ。それは、任天堂やユニクロが目指す世界に近い。未来の巨大企業、その可能性を秘めた原石がGREEなのかもしれない。
最後に、こんな言葉で締めくくりたいと思います。
グリーが目指しているのは、「SNS」ではない。このCGMの時代に必要とされるサービスは何かを考え、それをーザーに提供していくのがGREEだ。GREEが目指すものは「GREE」なのだ。GREEが目指す場所、それが日本の未来なのかもしれない。