マボロシの鳥
マボロシの鳥
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太田 光
新潮社
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爆笑問題の太田光さんの初の小説という事で若干期待して読みました。率直な感想としては、大人の童話です。これは…。短編物が8本収録されています。特に、本書のタイトルである「マボロシの鳥」に力が入っている印象です。表紙にある謎のナイフの絵も読み進めていくうちに「ああ、なるほど」という伏線が隠れています。本編的には短編物なので若干内容が薄いですかね。テロや戦争といった太田光さんの内部に流れるものを感じ取る事ができました。読み手を選ぶ小説ですね。

太田光の漫才から小説に場所を移した大舞台…。

Amazonのレビューでは賛否両論の意見があるようですが、僕、自身は嫌いじゃないです。お笑い芸人である太田光さんが書いたという先入観があるからなのかもしれません。文章中に流れる血はまさに大田光さんそのもの。9.11、戦争、テロ、紛争。社会の不の要素をうまい具合に小説に転化されている。そこが嫌われる理由なのかもしれない。小説としては決して1流とは言えません。完成度としては上・中・下で「中」の評価です。この本は大田光という人物の思想を小説に転化させたものです。そこが許せるかどうか。僕、個人的には「マボロシの鳥」と「人類諸君」が好きですね。「人類諸君」ではお笑い芸人である太田光さんらしい、コミカルな表現や言葉遊びが随所に盛り込まれています。
生まれ落ちた瞬間に恐怖で泣き叫ぶのだ。やがて、その泣き声は言葉となるが、我々は泣くことを止めない。我々は一生泣き止むことはない。この生涯に渡る泣き声こそが、この惑星のエネルギーだ。
やはり、本書の一番の魅力は表題にもなっている「マボロシの鳥」でしょうか。
簡単に説明すると2つの場面からなっている短編なのですが、ここに僕はお笑い芸人として活動する太田光さん自身を投影しているように感じていました。
「芸人が、なぜ、自分の芸をお客に見せたいと思うか。わかるかい?」(中略)
「お客を喜ばせたいとか、楽しませたい、なんて言うのは、後から付けた理屈だよ。一番の理由は、この客には、今、自分が必要なんだって、確認したいからだ。」
何か、我々が普段、世界の秘密、と呼んでいる、何か、だが…。実は、秘密と言いながら、タンガタも、我々も、それが何かとっくに知っている。あなたも、彼も、彼女も、みんな。もうすでにそれを知っている。ビックリだね。その、世界の秘密、とは、この時まさにタンガタが感じていたことだ。

自分は誰かと繋がっている。
この世界は、別のどこかと繋がっている
奇跡の雪はテロと紛争が裏テーマになっている。基本的に本書は「戦争反対」「テロ反対」という太田光さんの思いが込められているようだ。地球発では「銀河鉄道」と「星の王子様」を足して2で割ったような作品に仕上がっている。この本を読んで思ったのは、大田光って本当に本が好きなんだな。という事だ。本を楽しんで書いている…そんな雰囲気が感じられる。勿論、扱うテーマはダークだ。それが大田さんらしい。読み手を選ぶ小説だ。好きな人は好き。嫌いな人は嫌い。別にそれでいいと思うんだ。本ってそうものじゃない?僕は太田光という人を毛嫌いしているわけじゃない、確かにテレビ番組での毒舌が嫌いという人も多いようだ。この本は太田光という人物が色濃く投影されている。この本の裏には太田光という人物がいるのだ。それが好きか嫌いか、それが本書の評価にも影響してくると思います。

初小説…次回作にも期待です。