横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
横井 軍平 牧野 武文
フィルムアート社
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今のちびっ子は知らないと思うが、任天堂に横井軍平という人物がいた。まだDSもWiiも発売されるずっと前の話だ。今でこそ「任天堂」と言えば世界を代表するゲーム会社であるが、その昔と花札やトランプといった玩具を扱う小さな会社だった。横井軍平氏はそこで、のちの任天堂を築きあげるであろう商品を次々と生み出していく。「ウルトラハンド」「ウルトラマシン」「ラブテスター」など。携帯ゲーム機の先駆けとなった「ゲームウォッチ」で任天堂を救った男。20代、30代には懐かしい「ゲームボーイ」で携帯ゲーム機に革命を起こした人物だ。本書は元々1997年に発売されたもの。それを、読者の要望に応えて復刻したものだ。(※リターンズという名前の由来)

いささか扱っている内容は古いのかもしれない。
今の時代だったら、マリオの生みの親である宮本茂氏の自伝を出す事が妥当かもしれない。しかし、時代を経ても愛される横井軍平氏の凄さはアイディアの豊富さだ。何もないところから新しいものを次々に発明するアイディアの豊富さ。本書はそのアイディアに少しでも乗っかろうという趣旨のものだ。横井軍平がいなければ「ポケットモンスター」すらこの世に登場していなかっただろう。彼の経歴は特殊だ。大学を卒業後、任天堂に拾われた。そこで、暇潰しで開発していた「ウルトラハンド」が当時の社長である山内博氏の目まり、ゲーム開発者への道をスタートさせる。手探りの肌感覚と言えば聞こえはいいのか。消費者のニーズを的確に掘り起こすアイディア力は恐れ入る。今だったら、「ワンピース無双」のように、人気作品と人気キャラクターを組み合わせてゲームを作れば売れる!という大方の予想は付くが、その当時、キャラクターと言えば鉄人アトムとかディズニーとかの世界だ。全てが手探りなのだ。

横井軍平氏と言って忘れてはならないのが、「バーチャルボーイ」だろう。
これを失敗ととるか、3DSへの複線と捉えれるのかで意見が分かれるだろう。横井軍平氏は迷走していたのか、本人曰く、大失敗というわけではなさそうだ。完璧な3D空間を演出したゲームだと紹介している。今なら3Dテレビがある。実際、「みんなのゴルフ5」というゲームには3Dモードが搭載されている。十数年という月日をへと3Dは現実世界に浸透しつつある。早すぎた商品だったのかもしれない…。

基本的に1つの商品につき数ページの開発秘話が載っているという構成だ。

ゲームボーイで白黒かカラーか悩んだ末に、電池の持ち具合を考慮してモノクロを選んだ。のちらカラーが発売れるさが、徹底的にお客様目線であり、その中に独自性が備わっている。それが横井軍平という人物なのだ。

個人的に興味深かったのは、現代ゲーム界への警鐘とも言える高性能化の戦いだ。
横井軍平氏曰く、「アイディアが無くなった。だから、CPU競争に走り始めたのだ」と語っている。実際、今のゲーヘ界を見れば、まさにその通りだ。FF最新作でマップが1本道になったり、高画質のためにストーリーがおろそかになったり。最近では、「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D」というゲームが発売されるらしいが、過去の遺産に手を出した時点で何かゲーム業界は行き詰まり臭を漂わせている。
私はものを考えるときに、世界に一つしかない、世界で初めてというものを作るのが、私の哲学です。競合がいない、競争がないからです。日本企業というのはどんどん海外進出しています。それは、安い労働力で安く作らないと負けるから海外に進出しているわけです。私に言わせれば、そうではない。安くないと売れないというのはアイディアの不足なんです。だから、日本国内で作っても高く売れるだけのアイディアを考えたらいいじゃないかというのが私の意見です。(中略)売れる商品というのは、真面目に取り組んだらできるんです。最先端の技術を使ったら、かえって売れない商品ができてしまう。だから、「枯れた技術の水平思考」で気軽にものを考えれば、まだまだ売れる商品が作れるのです。
「ニンテンドー3DS」「PlayStation Vita 」といった新型携帯ゲーム機が横井軍平氏のいう「枯れた技術の水平思考」なのか?やはり、売り上げ的には横井軍平氏の遺伝子、DNAを受け継ぐ任天堂に軍配が上がるのかもしれない。これは別にゲーム業界に限らず、全てのもの事に適応する事なのかもしれません。最高級の指輪を渡すよりもお台場でデートした方がロマンチック。アイディアを考える全ての人に参考になる箇所がいっぱいです。1000万円の指輪よりも、デニーズでの楽しいお喋りですよ…。(笑)