グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた
辻野晃一郎
新潮社
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最近、「グーグルで必要なことはすべてソニーで教えてくれた」という本を読んだ。ソニーの元幹部の方が書いた本でとても刺激的な本だった。その中でソニー社員がカンパニー(ソニーは部門ごとのカンパニー制をとっていた)に対して、2001年に提出した中期戦略策定というレポートが載っています。それが凄いです。今は、東芝が国内でのテレビ生産から撤退したように、ソニーやパナソニックを始め、テレビ事業は赤字。その影響もあって、ソニーは莫大な赤字を計上しています。その逆がiPhoneを提供するアップル。もしかすると、このレポートと同じ事をソニーが行っていれば、今のソニーは昔のソニーとは違っていたのかもしれません。

今回は、その2001年9月10日に発表された中期戦略策定をご紹介してみょうと思います。
(1)これからの事業経営を考えていく時に最も重視しなければならないファクターはスピードであると思われます。商品開発、品質改善活動、ロジスティック(物流管理)等々、事業運営のそれぞれのステージでどれだけ高速なプロセスを確立できるかが勝敗を決めます。かける時間の短縮するほど、コストをセーブできることも当然の結論です。何かをしょうとする時に、どうやれば最短時間で完成できるか、ということを常に考えるクセをつけていただきたいと思います。
これは、アップルがデザインを自社で生産を台湾のフォクスコンに委託している事に近いのかもしれません。大量注文、大量生産、それにより1台の単価を下げる。そして少数精鋭の商品だけを並べる。今のソニーには残念ながら市場を驚かさせる斬新さもスピードも感じられません。
(2)完璧主義からの脱却

これまでのコストパフォーマビジネスにおける商品というのは、作る側もお客様も、いい意味での「完璧」「完全」を追求するマインドが強かったと思います。当然、商品に「欠陥」があることは許されませんし、「品質は利益の源泉」であると同時に品質で事業を潰すこともあります。したがってこれは難しい議論なのですが、我々は常に商品の完成度、品質に万全を期さなければならない一方で、「過度の完璧」から脱却した「割り切ったモノ作り」についてもっと学んでいく必要がると思います。これからの商品はネットに繋がることにより、「ネットでメンテナンスできる商品」「持続的に成長する商品」としての性格が強くなります。また商品の世代交代の周期も従来の商品よりも短くなっていきます。そのような時代には、やはり商品開発マインド、フィロソフィそのものも変えていく必要があると思います。
OSのサポートを次々に廃止していくアップルのやり方はまさにそうですね。パソコンだって3年もすれば新しいソフトが対応できなくなったりします。残念ながら、過度な完璧とは裏腹にソニーでは「ソニータイマー」と呼ばれる低品質のものになってしまいました。iPhoneはソフトウェアのアップデートにより進化していきます。そういう時代です。
(3)パワーシフト

日本の製造技術が依然、世界一であることは間違いないと思います。しかしながら、一方で韓国、台湾、中国などが、凄まじい勢いで追いついてきています。特に中国は労働力や社会インフラの安さもあって、ゆくゆくは「世界の工場」としてあらゆるビジネスにおける製造の根幹を押さえるようになるかもしれません。そうなければ、いまだに製造中心の日本の産業構造は根底から崩れることになるでしょう。したがって、我々がこれから新しいビジネスモデルを切り開いていく時の基盤は、従来の「労働集約型」の事業モデルではなく、「知識集約型」の事業モデルでなければなりません。たとえばインテルは、労働集約型のDRAM(半導体メモリ)事業から撤退して、知識集約型のCPU事業に集中したために圧倒的な利益を何年も確保し続けることができました。「労働集約型」の事業モデルは、商品の成熟と共に、「コモディティ化に伴う過当競争」に必ず行き着きます。この段階では「薄利多売」の世界であり、そこで生き残れば「残在者利益(衰退市場において、他者が撤退した後、耐え抜いた企業が残った市場を独占してあげる利益)」をエンジョイするステージもあり得ますが、我々がこれから打ち立てていかなければならない新しいビジネスモデルはこのような従来の単純な製造業のビジネスモデルとは一線を画したものとしなければなりません。今年の中期では、我々はもまさに「知識集約型」の事業モデル構築に向けた具体的なプランニングを真剣に行いたいと思います。そして、ネットインフラやデジタルインフラをうまく利用したパワーシフトを具体化していく必要があります。
今の、サムスン電子やLG電子とソニーや日本企業の戦いを見れば明らかですよね。結局、テレビメーカーとして残るのは過当競争を生き抜いた数社のみ。価格では中国勢が圧倒的有利。先日の鴻海精密のシャープ筆頭株主で堺工場の権利獲得のように、台湾勢や中国勢が迫っている。対して、噂さされるアップルのテレビ「iTV」はインテルでいう「知的収益型」の商品なのかもしれません。今のソニーは「労働集約型」だと思う。いかに、「知的集合型」に移行するのかが、今後のソニーの未来なのかもしれない。
(4)ソニーディファクトスタンダードの確立とアプリケーションレイヤの強化

セットアップや次世代テレビのプラットフォーム開発という行為において、デバイスからOSあるいはミドルウェイくらいまでのレイヤ(層)をコアプラットフォーム部分と呼ぶことにすれば、この「コアプラットフォーム」を開発するのは大変な作業になります。しかしこの部分は、手間がかかる割には、お客さんから見たときの付加価値をアピールしにくいところであり、商売上利益を生み出し難いところでもあります。したがって、この部分はばらばらに作らないで、1つか2つの限られたオプションをソニーのデファクトスタンダードとして確立していくようなアプローチを取る方が、開発効率が上がり開発費を削減できます。そしてなるべく基盤や部品の共通化を図っていき、業界のスタンダードとして位置づけられるように持っていければ、コストダウンも進み、開発スピードもあがるでしょう。その上で、今後は商品力的にもビジネスモデル的にも、より付加価値を生み出しやすい「アプリケーションレイヤ」や「ネットワークレイヤ」のところになるべく集中して新商品やサービスを考えていくアプローチが必要なのではないかと考えています。
私事だが、自宅にパソコンが入ったのが2003年頃。iTunesが公開されたのが丁度このレポートが発表されたのが2001年。まだ世間的にもネットと言えば、メールかiモードといった時代だろう。家庭にネットなんてなかった。そんな時代のこの提案だ。今から考えれば、その7〜8年後グーグルが「アンドロイド」という無料の基本OSを公開する。もしこの提案が通っていれば、世界のOSはソニー製だったのかもしれない。ウォークマンは完全なアンドロイドOS採用だ。携帯のエクスペリアもそうだろう。

結局、ソニーの問題というのは、こういう優秀な人材がいながらトップの内紛で提案が上に上がらなかった事だろう。ソニーがグーグルやアップルになるポテンシャルは十分にあったと思う。はっきり言えば、アップルとソニーの違いは技術力でも資本力でもなく、スティーブ・ジョブズという強力なリーダーシップのとれる人間がいた事だろう。今のソニーにそのポテンシャルがあるかは分からない。しかし、2001年には確実にそのポテンシャルがあったと思う。今のソニーにそのポテンシャルがあるのかは謎だ。しかし、日本人としては日の丸企業には頑張って欲しいと思います。