アメトーークやロンドンハーツを見ていると、笑顔でカンペを出す男がいる。毎週観ている人なら1度くらいはその場面に出くわした方もいるしかもしれない。それが本書「たくらむ技術」の著者であり、「アメトーーク」「ロンドンハーツ」の総合演出を勤める加地倫三さんです。テレビ業界で長年働いた経験を元に、ビジネスで使える方法や部下を動かす極意。そして、仕事への情熱を語ります。テレビ業界というと誰もが知っている一方で、裏方にはあまり注目が集まらない。総合演出が何をしているのか?イマイチ分からない。簡単に言えば、映画の監督みたいなもので、企画会議に出て司会進行をしたり、編集に立ち会ったりする仕事です。アメトーークの1回の収録だけで1200カット。収録時間は約2時間半×カメラの台数分だけあるそうです。それを1時間の番組に編集する。作品へのこだわりは強い。「クソまじめに積み重ねる」と書いている。情熱を人一倍持つ男。加持さんは自分の事を、こう形容している。
僕は自分の仕事を「饅頭作りの職人さんのようなもの」というイメージでとらえらています。その情熱はある意味で「くだらない」と変換される。昔、ロンドンハーツでタレントの青木さやかさんがパリコレにそっくりのファッションショーに出るというドッキリがあった。記憶にある方もかるかもしれない。放送では本物と見間違うようなセットが組んであったが、加持さん自身どうしても本物にこだわりたかった。しかし、予算担当に予算の都合でダメをくらったそうだ。そんな時、加持さんはこう言ったらしい。
「ふざけるな。それじゃあ理想のパリコレにならない。面白さが足んねぇ。赤字を出せばいいだろ!このセットができないなら、全部やめる。」その後も、ロンドンハーツではアパートの2階から芸人が落ちるという企画で、実際にアパートを建てて実現しているところがすごい。昨今、テレビ普及で予算削減が続き、番宣番組ばかりが放送されているが、加持さんの作る番組には殆ど俳優や女優が出る事はない。
●余裕のあるうちに次の準備をしておく。
今や「格付けしあう女たち」などの人気企画があるロンドンハーツですが、ある時期に素人ドッキリ「トライアングルとか2股企画」が視聴者に飽きられたことがあるそうです。その時は視聴率一桁で打ち切り寸前まで行ったそうです。様々な新企画を立てては失敗し、本当にどん底を経験した。そんな時の教訓が「余裕のあるうちに次の準備をしておく」という事でした。アメトーークでも「油あげ芸人のように、なんでこんな企画をやっているんだ?」という事が多々ありますが、ある意味でそれも加持さんの企みの一つであるようです。
分かりやすいたとえで言うと、1回目に15パーセント程度の高い視聴率を取った企画は、その後も「勝ち企画」として、繰り返し放送しても12〜13パーセント程度の視聴率を取るかもしれません。でも、おそらく最初の面白さやインパクトを常に超えることは難しい。(中略)だとすれば、「負け」を覚悟してでも、新しいこと、面白いことを混ぜていかないと番組は力を失っていきます。(中略)こんなふうに、1回こどの結果を求めすぎないで、飽きられないためにどうするか、という点で常に企んでいます。●企画書は短く書いて「減点」をなくす。
よく、長い企画書の方が熱意が篭っていていい。と言われますが、実際は違います。企画の責任者。例えば、テレビで言えば「製作局の上司」だったり「編成マン」だったりするわけですが、そういう人には絶えず膨大な新しい企画書が飛び込んできます。長い企画書を見たら真っ先に思うのが「読むの大変だな」という事だと思います。だから、企画書は長く書くのではなく、短く要点だけをまとめる。10個の面白い点を書いても7個がダメだったら、3個良い点があった企画書ではなく、7個ダメがあった企画書という印象を与えてしまいます。「減点方式」で見てしまうからです。企画書は要点を大切に…「詳しい事は後日改めて」と書き添えておくのがいいそうです。
●ネットの文句を真に受ける。
よく我々はいい反応ばかりを気にします。その一方で悪い反応には目をつぶる。しかし、大事なのは賞賛ではなく批判。加持さんは、番組の反応について「批判」の方に注目するそうです。
自分が見られる範囲のものだけですが、そういう反応にできるだけ目を通すようにしています。「面白かった」「笑えた」「最高」といった反応もあれば、嬉しいことですし、励みにもなります。でも、そういった賞賛以上に、僕はあえて批判に目を通すように心かげています。それが次につながるからです。「つまらなかった」という意見はもちろんのこと、「不快だった」「あそこまで言うと何か嫌な感じがした」といった意見を見て、ではどうすればよかったのか、を考えるのです。●面白い人でなくてもいい。
実は、この仕事においては、「驚異的なヒラメキ能力」よりも「まっとうなバランス感覚」の方が大切だと思います。ここはよく誤解されるところですが…。入社試験の面接などをやっていると、すごく個性的な人、独創性にあふれる人が来ることがあります。その人自身からは「トンガった」雰囲気が漂っています。こういうタイプの人は、面白いし目立つので、面接官によって高く評価することもあるのですが、僕はまず通しません。いくら面接の段階で面白くても、その魅力を持続できるとは考えられないからです。必要なのは「面白さを理解できる頭」「面白さを伝えられる頭」なのです。●テレビは面白い。
加持さんは最後にテレビ業界を目指す人に、こんな事を書いている。テレビ好きらしい素適な言葉です。僕もテレビ局に就職しちゃうかな?なんて思ってしまいました。(笑)
このところ、テレビの仕事はキツい、という話をよく伝えられます。たしかに、労働条件がすごくいいかというと、なかなかそうとは言い切れません。朝早くから深夜までずっと働くことも珍しくありません。それでも、この世界を目指す人はいると思います。そういう人には、僕はこんなふうに言っておきたいのです。他にも仕事をする上で大切な事。部下の管理や仕事の進め方などビジネスマンに求められる情報が書いてあります。「1ついわれたら2つやれ」「ダラダラと会議をしない」「無理にハードルを上げない」といった事が書かれています。テレビ好きは裏方の暴露話としても面白いと思います。
「この仕事はめっっっっっっちゃ面白いよ。ずーーーーっと笑っていられるもん。たしかに最初の数年はキツいことも多いけれど、それを乗り越えたら、こんなに楽しい仕事はないよ」