成毛さんは書評界では有名な方です。世間的には「日本人の9割に英語はいらない」の著者と言えば、わかり易いのかもしれません。本書「大人げない大人になれ!」は単行本で発売されたものの、文庫版。単行本はダイヤモンド社でしたが、文庫版は何故か新潮社から発行されています。大人の事情とかあったのかな?本書では現代を生きる大人の殆どが発病している「大人病」と呼ばれるものの処方箋となる本です。元マイクロソフトの社長という事で、かなりお堅いイメージでしたが、文章が軽妙でめっちゃ面白い。一つ一つのエピソードが短編小説のようになっています。まず冒頭、のっけから「マイクロソフト本社で血まみれで倒れている人がいる」というエピソードがある。よくよく見ると、それは口の周りにケチャップを付けて寝ているビルゲイツだったのだという。大人げない大人になれ! (新潮文庫)posted with amazlet at 12.12.30成毛 眞
新潮社 (2012-11-28)
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大人というと、堅苦しいイメージを誰もが想像する。子どもは勿論のこと、大人でさえもっと年上の大人を見て「頭固いな」と思ったりする。自分もその一員かもしれないのに…。本書では、その病気を克服する方法として「大人げない大人になれ!」と提案している。「子どもっぽく生きる」とは若干違うニュアンスなのかもしれない。「夢中になることが才能」「やりたいことはやってみる」「知らないことは強みである」など、自分の本来の感情に赴くままに行動する。よく趣味は定年後だ。なんて言われるが、衰えた老人に残された選択肢は多くない。成毛さん自身、読書・歌舞伎・プラモデル作りが何よりの楽しみだそうだ。ゲームに熱中し、何日も会社に行かない日があったらしい。気の利いた社員がゲーム内で成毛さんに話しかけてきたこともあるそうだ。
「私は、若い人たちがやる事や、そのやり方にはいちいち異論を挟まないタイプの人間だが、一つだけやめてほしいことがある。それが「目標を持つこと」てある。目標を設定することは無意味であるどころか、自らの可能性を捨ててしまうことに等しい。目標に縛られた人生は物非しいのだ。」
現代人の多くが成功を夢見る一方で失敗を恐れている。失敗なき成功ほど怖いものはない。しかし、そのダメージは時としてトラウマになり致命傷にもなる。成毛さんは失敗しないたった一つの方法をこう書いている。
「もし、失敗しないための方法があるとすれば、このように自分に大きな刺激を与えて、感覚のセンサーをバカにしてしまうことがいい。自分が失敗と認識しなければ、それは失敗ではなく、いつかは成功につながっていくのである。」
ほぼ日のさんまさんと糸井さんの対談で、何でも「おもしろいと思えば何でもおもしろい」と言った明石家さんまさんの言葉が印象的です。結果的に捉え方次第で、失敗を失敗と思わなければ失敗ではない。ただ、失敗を振り返らない人は成功できない、という事は付け加えておきたいと思います。
この本の中で僕が衝撃的というか興味深かった点が「読書に対する姿勢」です。僕はこうやって書評を書いていますが、記憶力がイマイチのため長期的に「例えば、1年前に読んだ本にこんな事が書かれていた」といった具合に一字一句覚えることができません。数ヶ月前に読んだ本すら「あれ、この本読んだっけ?」という始末。それはある意味でコンプレックスでした。それが、成毛さんの言葉で解消されたような気がします。
「読書において重要なことは、本の内容を頭に入れることではない。大事なことは記憶するのではなく、本を読むことで衝撃を受け、自分の内部に精神的な組み換えを発生されることだ。」
この本で書かれている事を要約すれば「もっと楽しい生きかたがある。一旦、大人の感覚を捨てて本来の自分を取り戻そう」といった事だと思います。時間は誰にとっても平等です。その中で何をするか。楽しい人生、辛い人生、それは心がけや行動次第で決まるものだと思います。巻末にお勧め本が載っていたり、エッセイなどが載っています。文庫としては内容十分だと思います。