松井博
アスキー・メディアワークス
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アップルと言えば、今や世界一の時価総額を誇る大企業です。iPod、iPhone、iPadなど次々にヒット商品を生み出している。スティーブ・ジョブズ亡き後を託されたティム・クックの経営も順調なようだ。今のアップルが快進撃を続ける一方で、一時は倒錯の危機に陥った。本書は1992年から2009年までアップルで働いていた著者が語る、アップルの裏話が満載だ。一時は、社員に覇気が無く、無用なプロジェクトが乱立していた。そんな時に、やってきたのがアップル創業者であり、当時、NeXTを経営していたジョブズが帰ってきた。正確に言えば、ジョブズ以前にアメリオという人がアップルの再建に当たっていた。それをさらに推し進めていたのがジョブズだ。当時、何十とあったプロジェクトを10数個に縮小。発売する製品も限界まで切り詰めた。それがのちの、iMacの発売に起因する。
このころから、スティーブに社員食堂などで話しかけられてシドロモドロになってしまうと「お前は自分がどんな仕事をしているのかも説明できないのか? 同じ空気吸いたくないな」などと言われ、首になってしまうという噂が流れました。たまたまエレベーターでスティーブと乗り合わせて首になったなどという話もあり、話に尾ひれが付いて恐怖感が社内の隅々まで行き渡り、みんなスティーブと目も合わせないようにする始末でした。
本書はアップルの裏話が魅力的な一方で、一種の「企業のあり方」を提示する本でもあります。アップルの凄いところは、製品以上にトップダウンで物事が進められる点にあると思います。
アップルに在籍当時、私は別に重役や幹部というわけでもないのに、私からスティーブ・ジョブズまでわずか3階層しかありませんでした。
その一方で、厳格なルールがあったわけではない。
アップルには「秘密保守」と「自分の仕事には責任を持て」くらいしかルールらしいルールがありません。もちろん細かいプロセスなどの決まり事もあるのですが、ろくに浸透する前にプロセス自体が変わってしまうので、結局のところずっと変わらずに徹底されているのはこの2つだけです。
アップルの凄さは、「製品」に集約されると思います。日本企業が企画や開発の段階で妥協したり、仕様が変わったりしますが、アップルの場合は最初のイメージを、そのまま形にします。天才的なデザイナー「ジョナサン・アイブ 」がデザインを担当する。そこには、世界を代表する人材が集まっているそうです。
売れる製品やサービスを創るうえで最も集中するべきところは、まず明快な製品コンセプトを定義することと、そのコンセプトを満たす「これ以外はあり得ない」というような優れたデザインを生み出し、それを崩さずに製品化にたどり着くことです。
アップルが世界を席巻する。アメリカの企業というと、誰もが自由な会社を想像する。しかし、アップルは日本で言うと「ブラック企業」のような厳しい労働環境があったそうです。
自分が世の中を変えることに寄与しているという実感は、仕事のやる気を恐ろしいまでに向上させてくれました。アップルはシリコンバレーの中でも屈指の労働時間の長い会社で、休日出勤も非常に多く、日本的に言えば「ブラック企業」といった感じなのです。しかしこの「世の中を変えている実感」が社員のモチベーションの維持に絶大な力を発揮しています。アップルで働くということは熱湯風呂に我慢して入っているようなつらさも少なからずあったのですが、そのつらさを打ち消して余りある魅力がありました。
これは全てのアメリカ企業に当てはまるわけではありません。逆に、Googleのような企業は本当に自由な環境のようです。世界から優秀な人材が集まる。世界を変える製品を開発する。有名大学卒や尋常なないほど優秀な人材が掃いて捨てるほどいる。その一方で、用が無い人材は容赦なく切り捨てる。著者自身、アップルから解雇された、という過去を持つそうです。ある意味で成功とはストイックでありワクワクと一緒扱われるものなのかもしれません。韓国のサムスンが躍進し、日本企業が衰退する。盛田さんがウォークマンを売っていた当時、ある意味でアップルのような環境だったのかもしれない。日本企業が復興するには、一度、辛い経験をする事が大切なのかもしれない。この本は役職であれば、社員への対応に。サラリーマンには、自身の働き方を考えるのに良いと思います。キンドルで350円で売っているので、紙本よりも安いです。