DeNAと言えば、若い人なら「モバゲー」だったり、年配の人では「ベイスターズの親会社」という事で知っている方は多いと思います。本書「不格好経営」は、創業者である南場さんの伝記であり、DeNAの歴史を綴ったもの。ビジネス書なので、経営に活かせる事、そして会社を大きくする方法が書かれていると読者の方は期待するでしょう。はっきり言う、本書には儲かる方法は一切書かれていない。でも、経営にとって一番大切な事が、ぎゅっと綴られている。それは、社員を大切にし、全労力、全勢力を経営に活かす事。まさに、本書のタイトルにもなっている「不格好経営」という事だろう。
例えば、GoogleやFacebookなどのように天才的な技術を持つ経営者が引っ張って行く会社もある。しかし南場さんの場合は元がマッキンゼーで大前研一氏の下で働いてたコンサルタント出身という事もあって、技術者というわけではない、オークション、最初のシステムは外注だった。外注の確認を怠り、サービスが完成していない、倒産寸前の状況にも追い込まれたという話は本書に譲る。

本書で一番学べる大切な事と言えば、会社は「人」で動いているという事だろう。当たり前すぎて意識しないが、DeNA最大の強みは「優秀な人材」と「社員同士の絆」なのかもしれない。本書で南場さんはDeNAが目指すべきゴールを、

「同じ目標に向かって全力を尽くし、達成したときのこの喜びと高揚感をDeNAの経営の中枢に据えよう」

と綴っている。

ある意味で学生の部活のようなノリだ。ベンチャー時代ならいざ知らず年間の売り上げは2000億円に迫る大企業になった今でも、ベンチャーのような風土を維持しているのは率直に凄いと思った。南場さんの凄さはお世辞にも天才的な手腕と言えない。しかし南場さんが優れている点は「人を信じ、人を成長させ、そして成果を出す」というプロセスなんだと思う。どの社員も南場さんの事をお母さん、時にはお姉さんのように慕っている。「不格好」であっても、それを貫く「格好良さ」があれば結果的に「カッコいい」という事なのかもしれない。

会社でも学校でも「こんなのかっこ悪いよ〜」と、初歩的な練習や努力を怠るケースがある。仕事でも勉強でもそうだ。しかし、イチローだって日々のストイックな積み重ねで結果を出している。この本の凄さは普通なら表に出したくない、「不格好」を全面に出した点だ。そこが逆に「カッコいい」のだ。

DeNAは新入間もない社員にも大きな仕事を任せるそうだ。最近では無料通話アプリの「comm」を開発したのは入社間もない社員だったそうだ。しかし、そこだけでは終わらずヒットが見込めると思うと各部のエース級の社員を総動員して事に当たる。これがDeNAの強みだろう。

確かに、南場さんが経営の一線から退いたDeNAを心配する声も聞く。しかし、DeNAの魅力は社員なのだ。本書によると、経営の一線を退いた今でもリクルートには全力を注いでいるらしい。優秀な人材と絆が譲れた瞬間、それはもの凄い力を発揮する。今、就活中の学生だって新入社員だって、少しくらい自分の「不格好さ」を出してもいいのではないか?とも思った。

その方が人間らしい、会社は機械ではない、人間の成果の積み重ねが利益なのだろう。

最後に、南場さんは社員に向けてのこんなメッセージを綴っている。
アシモフだったかクラークだったか忘れたが、地球にこれまで生を受けた人間の数と宇宙に存在する星の数がだいたい一緒だ言っていたのを思いだす。

私にもひとつもらえるのかな、と考える。どんな星がいいだろうか。どんな会社をつくろうか。

たった今、原稿はできたかとせかしに来た若手社員に、あんたどんな星がいいさ、と聞いてみる。若い星と答えた。このやろう。

そこで川田。

「おれは太陽系以外は関心ないわけ

オリオン座の星を一個くれるって言われても何もできないから困りますよね。月にしようかな。重力が弱いのを利用してさ、地球ではできない強度の合金をつくって合金王。えっ、衛星は入らないの?」

守安がやってきた。
これまで生まれた人間と星の数が同じっていうけどひとつ欲しくないか、と言う私に、「どこからが人間ですか?アウストラロピテクスも入れてますか?」と冷たい視線。忙しそうだ。

社員の数だけ個性があって夢がある。それぞれの個性と夢が集まって、またきっと離れていく。46億年の地球の歴史のなかでDeNAの歴史はまだたった数年だ。これから会社がどんなに長生きしようとも、地球や宇宙の時間のなかでほんの瞬間の存在になる。けれどもなにか宇宙に引っ掻きキズみたいな証を残したい。私たちの大きな夢とてんでバラバラな個性で、DeNAが生まれる前とその後では、きっち違う時代になる。
文章はユーモアたっぷりに、時にはジョークを交え、そして会社にとって社会にとって大切な事を教えられた気がする。全ての働く人に向けて、そして、これから会社を起こす人には良書でしょう。DeNAは確かに素晴らしい会社だ、新入社員の応募は6万人近い人が受けるほど人気だそうだ、僕にはまず無理だろう。ただ確かに素晴らしいけれども、じゃ実際、無料通話アプリに「comm」を使うのかと聞かれれば、たぶん「LINE」を使うと答えるだろう。モバゲーのゲームで遊ぶのか?と聞かれれば「パズドラやってます」と答えるだろう。

今後のDeNAの成長はまさに、社員にかっているのだと思う。
理想と現実の狭間を越えて、、。その未来に期待して、、。