五味一男という名前を聞いてピンと来る人は少ない。ただ、「クイズマジカル頭脳パワー」「エンタの神様」と言えば、多くの人が膝を叩いて「あっ知ってる!」と答えるだろう。そんな番組を企画し演出していたのが本書の著者だ。業界では「視聴率男」と呼ばれ、手がける番組は次々に視聴率20%を叩き出す。そう聞くと多くの人が「天才だから仕方ないか」と思うはずだ。しかし、五味さんは決して天才ではない。本書を貫くキーワードになっているのが、

「100のレベルの自分」
「200のレベルの自分」

という2つのワードだ。

簡単に説明すれば、「100のレベルの自分」とは、日本人として一番普通の感覚を持っている自分のこと。「200のレベルの自分」とは、普通の人たちに向けて新しい事をする自分のこと。五味さんが手がけた番組は軒並み20%を叩き出すが、その根底にあるのが「普通」という言葉だったりする。
あえてヒットを生むために肝心な要素を挙げるとすれば、まずは世の中でいちばん多い、いわゆる「普通の人」のことをよく理解しておくことだと思う。常日頃から自分の中に、世の中の最大公約数的な「普通の人」を住まわせておくようにすることが何よりも大事なのだ。
「100のレベルの自分」と「200のレベルの自分」を対話させ番組や企画を作っていく。世間的には天才的なひらめき(勿論それも大事だと思う)が重要だという認識があるが、五味さんの考える企画とは天才的なひらめきではなく、ある意味で構築されたものなのだろう。これとこれがああなってこう、という事が既に頭の中で行われている。
それとは対照的に天才的なひらめきで番組を作るのが、同じ日本テレビで「電波少年」や「ウリナリ」を手がけたTプロデューサーこと土屋敏男さんだったりする。五味さんはその上で「200のレベルが必要なのは10%、後は普通の感覚が大切」と綴っている。「自分の好きなことをやれば必ずヒットするというのは間違い」というのが五味さんの基本姿勢だそうです。「クイズマジカル頭脳パワー」立ち上げの際にも、他番組や過去のクイズ番組を徹底的に研究しヒットの要素を集めていたそうだ。ただ、必ずしもヒットの予感があったのか?というと、答えは違っているようで、「世の中の普通の人が面白いと思える番組」を心がけた結果が現在の成功にあると言っている。

ヒットを出す事、それ自体は難しい。ヒットを続ける事はもっと難しい。その裏では人間、生身との戦いが常にある。会社という重圧、ヒットを期待される重圧。そんな中で戦わなければならない。決して楽な事はない。
正直、今の私は肉体的に健康体とは言い難い。長年にわたり仕事を同時に何本も抱えてきたせいか、今や自律神経失調症で睡眠薬などを山のようにもらう有様である。
ヒットを続ける事は大変な覚悟と強靭な肉体が必要なのかもしれない。その上で確実にヒットする保証がないのだから、その精神的な圧力はもの凄いものがある。本書は天才的なひらめきではなく、普通の人がいかにヒット企画を生み出すか?について書かれたものだ。「100のレベルの自分」「200のレベルの自分」をうまく対話させヒット企画を生み出してみたいと思った。

ただ、ヒットが出る一方で、伝説的に記憶に残るのかといった問題がある。土屋さんのように天才的なひらめきで生み出した企画「懸賞生活」であったり「ポケビやブラビ」といった企画は記憶に鮮明に残るけど、「えっエンタの神様ってどんな番組だっけ?」といった具合に、長年に渡って語り継がれるか?というと、また違った問題だったりするのかもしれない。

ヒットと記憶、その辺が難しい、、。