ホリエモンの小説第2弾。出版から少し時間が経っていますが、文庫で読みました。この本は前作「拝金」のオッサン(モデルはおそらくホリエモン)の過去を描くといった内容になっています。確かに、Amazonのレビューなどでも語られているように、前作よりも文章が上手くなっているのは事実です。ただ、本書を読んで強く思う事は「プロの作家すげぇな!」という事です。ホリエモン自身、メルマガなどを通して文章を書くのは下手ではない、だけど細かいディテールだったり読者を引き込む世界観の構築は、まだ甘いなって思います。だけど、本作の魅力はそこじゃない。むしろ多くの部分がホリエモンが小説を通して伝えたかった事にあると思う。

本作の内容を簡単に説明すると、オッサンの会社「オン・ザ・エイジ」が「Light通信」という会社に乗っ取られる。復讐に燃えるオッサン、その裏ではヤマト・ザイケイテレビを乗っ取ろうとするハードバンクの鮫島の陰があった。その裏での暗躍、お金を巡る争い、2000年代前半のIT業界の裏側を描く、、という話です。

その中でホリエモンは2000年代前半のIT業界の裏側を綴っている。本書の魅力はホリエモン自身が経験してきた、IT業界の裏側やその隠された真実を小説に盛り込んだ事。本書のあとがきでホリエモン自身が「そういう謎が分かると面白いよ」といっているけど、やはりその時代を生きた人間からの臭いがプンプンとしてくる。それが面白いのだ。「Light通信」は光通信だし、ハードバンクはソフトバンクだったりする。どこまでが真実なのかは分からないが、その辺の謎解きも面白い。

本書の中で興味深かった点は、この言葉に集約されている。
「(ベンチャーの社長は)思考回路や雰囲気がよく似ているんだ、あいつら。それにパソコンやネットの知識が意外とない。あんたらと働いているわしのほうが詳しいくらいでのう」「結局ね。いまのITベンチャーの大半は「IT」じゃないんだ」
と。

ホリエモン自身、著書「君がオヤジになる前に」で、こんな事を綴っている。
普通の実用書には負けない、読めば役立つ情報を100個ぐらい詰め込んでいる。ディテールが甘いとか、こんな描写の薄いものは小説じゃないとか、厳しい書評もあったけれど、細かいディテールや描写の掘り下げに、何の意味があるのだろう? 正直、そんなものにこだわるのは送り手だけだ。武市半平太の切腹シーンに30分かける発想と同じで、受け手にとっては退屈きわまりない。
つまり、細かいディテールではなく、臭いなのだと思う。その生々しい臭いを鮮度の高い状態で届ける。それが本書の魅力だ。

僕はこの本を文庫で買ったけど、できるなら文庫版をおすすめしたい。釈放後のホリエモンの解説があったり、ITジャーナリストの佐々木俊尚さんの解説が載っている。ちなみに、ホリエモンの次回作は「練金」というタイトルらしい。次回先にも期待して、この書評を終わりにします。