これは凄い本です。最近の例で言うと、アップルやディズニー、Amazonの例を紹介する書籍は無数に存在しますが、本書はそれよりももっと踏み込んで「ディマンド」つまり需要を生み出す方法を、たっぷりの事例と共に紹介しています。例えば、冒頭で紹介されているカーシェア事業。ネスレが提供するカプセル型のエスプレッソマシン「ネスプレッソ」。日本では馴染みがないけどアメリカでは超有名なレンタルDVDの会社「ネットフリックス」の例など、多岐にわたる分野を網羅しながら、需要(ディマンド)を生み出す方法が分析されている。例えば、本書によればディマンドを生み出す方法は以下の6つに分類される。

●需要のミステリー。

1.マグネティック(機能面と情緒の「魅力」が生み出す。)
市場に登場する製品の大半はよいものだ。なかには非常に優れているものもあるが、顧客の感情的な結びつきを創り上げるという点で失敗している。「優れているもの」が「魅力的」とはかぎらない。ディマンドクリエイターはまず厳しい現実認識からはじめる。そして、抗いがたい魅力を持つ、興奮してそこらじゅうでしゃべらずにいられない製品が完成するまで、試行錯誤を繰り返す。ディマンド創出の勝者となるのは、一番に市場に参入したものではなく、最初に市場の共感を創り出し獲得した者だ。
2.ハッスルマップ(時間とお金をムダにする「欠点」を明らかにする。)
われわれが購入する製品の大半には欠点がある。時間やお金のムダ、不親切な取り扱い説明書、不必要なリスク、イライラするようなバグや不具合など、さまざまハッスルが多々発生する。使いやすさ多様な選択肢、高度な自動化ときめ細かい個人対応のサービス、品質向上と低価格。両者を兼ね備えた思い通りのものが手に入ることはめったにない。だが、ディマンド・クリエイターにとっては、ここは巨大な機会が埋もれている。日々暮らしの大きな部分を占めるハッスルを分析し、改善方法を見いだすことによって、滞在する爆発的なディマンドの道が拓かれる。
3.バックストーリー(「見えない要素」で魅力を強化する。)
見えないものが製品の成功を左右することがある。ディマンド・クリエイターたちは、9割方完成したバックストーリーでは不十分だと考える。完璧なバックストーリーが整わなければ、ディマンドは生まれない。顧客のハッスル・マップの改善に必要なすべての点をつなぐのだ。
4.トリガー(人々を「夢中」にさせ、購買の決断を下してもらう。)
ディマンド創出の最大の障害は、怠惰、懐疑主義、習慣、無関心だ。人々は、製品に関する噂を耳にしても、すごに購買行動には走らず、様子見を決め込む。こうしてディマンドされる。人々に行動を起こさせるもの、それがトリガーだ。優れた企業でも適切なトリガーを見いだすまでに何年もかかるものだが、莫大なディマンド・クリエイターは常にトリガーを探求し、様子見をしている人々に顧客に変えるなにかを見つけようとしている。
5.トラジェクトリー(魅力を「進化」させ、新しい需要層を掘り起こす。)
製品の市場投入は、市場の無関心に対する一連の攻撃の第一段階にすぎない。偉大なディマンド・クリエイターは、市場参入のその日から、次なる段階、できるだけ早く成長軌道に乗せる方法ほ模索する。技術面と感情面で改善を施すたびに新しい層のディマンドが解き放ち、右にならえで便乗しよとするライバルがつけ入る隙をなくすことができるからだ。
6.バリエーション(「コスト効率の高い製品の多様化」を図る。)
「全てのディマンドを満たす万能な製品」。偉大なディマンド・クリエイターたちは、このじつに魅力的なアイディアをボツにしてきた。そんな製品はありえない。「平均的顧客」は神話にすぎず、個々の顧客のハッスル・マップは千差万別(さらに同じ顧客でも時期によって異なる)だと考え、複雑な市場の「平均」を探る発想からの脱却を目指す。過剰(顧客が求めていないもの)と不足(顧客かせ埋めてほしいと願っているギャップ)を取り除き、多様な顧客タイプの多様なニーズにより近づけた製品バリエーションを作るための、効率的かつ費用対効果の高い方法を模索する。そして、多様な顧客タイプの60%〜90%以上に応じた製品をコンスタントに送り出していく。

●ディマンドの例。

例えば、トリガーという点ではアメリカでネットレンタル(日本で言うTSUTAYAディスカスのようなサービス)を提供する会社がある。このサービスの誕生にはある不満点があった。アメリカではずいぶん前から店舗型のレンタル店はあった。しかし、延滞金の問題。そしてアメリカ特有の広大な国土。日本なら通勤通学の間に返せるけれども、アメリカでは休みの日にしか返せない。そんな問題を解決するためには始まったネットフリックスのサービス。その魅力は勿論手軽という点にはあけれど、膨大な数のレンタル数。それが顧客を夢中にさせている。

例えば、ネスレが提供するカプセル型のエスプレッソマシンであるネスプレッソ。日本でも最近話題になっている(実を言うと我が家にもある。)けど、元々80年代に開発されたもの。ビジネスモデル上手い。カプセルの販売はネスレが通販方式で行っている。ヨーカ堂で売っているドルチェグストのように店舗では買えず、通販のみ。その味に惚れ込んだ客は何度となく購入する事で利益を上げる。現時点で全世界で年間30億ドルの売り上げを誇る。販売数ではあのスターバックスも抜くらしい。

ディマンド。つまり、不満や不備を正し新しい需要を創出する事。必ずしもそれは新しい技術だけではない。勿論、ネットや通信技術の進歩によって誕生した例も少なくはない。新しい需要はつまり、今にあるのだと思います。最後に著者はこう締めくくっている。
見上げてはいけない。鏡を覗いてみよう
と、、、。