「カナダやアイルランドなどの英語圏でDVD販売店を訪問したときに
確認できたのが、animationとanimeの別々に設置されていたことだ」
冒頭でかなり衝撃的な話が綴られてありました。日本のアニメ、最近では「クールジャパン」と言われてますが、世界的に日本のアニメが市場を席巻しているのか?と言うと、その答えは限りなく「非」に近い。その上でアニメの現実を投影しつつ、作品の分析やアニメ産業の実態を、アニメの過去と現在を交錯しながら、世界での日本アニメの実態を暴きます。

アトム・ガンダム・マクロスが日本発信で世界に通用したアニメだと言われているけれど、本当にそうなのかと問いかける。

●ジブリ作品で全米ナンバーワンはどれ?

ジブリは世界に通用する、それこそ「トトロ」「ラピュタ」「ナウシカ」、もしくは「千と千尋」はアメリカで人気だと思っている人は多い。でも実は、アメリカで最も売り上げた作品は「借りぐらしのアリエッティ」だったりする。それも100億円単位ではなく、たった19億円。評価は現実はある意味で相対するものがあるのかもしれません。

●ディズニーに対抗した虫プロの「アトム」。

虫プロダクション、それこそ日本アニメの元祖で「鉄腕アトム」を制作した事でも有名ですが、ディズニーと大きく違っていた点が制作費の規模です。ディズニー作品がアニメ1話分に対して約1万5000枚の動画を使っていたのに対して、「アトム」ではその10分の1、1500枚。時には、それ以下の場合もあったそうです。ある意味でそれが現在の「毎週1回 30分番組」という帯アニメの原点を作ったと言っても過言ではありません。さらに、決定的で面白い発言だと思った部分が、アトムの作画に関わった杉井ギサブロー氏のコメントとして、
そのあまりの「動きの少なさ=描く絵の枚数の少なさに」戸惑い、手塚治虫に対して「こんなに絵が動かなかったらアニメーションではない」と訴えた。すると手塚は、「これはアニメーションではなくアニメだ」と答えたという。
冒頭の話にもあるように、つまり日本人が作ってるいのはアニメだ!という事なんですよね。そういう意味では日本のアニメが凄いという表現は、アニメーションそのものではなく、本当の意味で日本のアニメの事なんだと思います。

その意味で、その逆にディズニーのような壮大な物語を作るべきだ。と、主張したのがジブリの宮崎駿監督と高畑監督だったそうです。

●日本のアニメは売れてない。

という事をすばり言った上で、日本の現実に戻る。実は、世界でヒットしないアニメがさらに日本国内でもヒットしていない実態を綴る。2000年代初期の爆発的な制作バブルは過ぎたものの、国内におけるアニメの制作本数は多い。その上で深夜帯アニメの収入源の一つであるDVDなどの販売が低迷している実態があると言います。本数だけで増えて、販売は落ち込んでいる。つまり、国内ではすらアニメという市場が衰退しつつある。その上で著者は、今後は中高年層をターゲットにするべきではいか?と言います。「国や自治体、アニメ制作関係者、そして、アニメを愛するファンの意識は、絶望なほど乖離している」。それを踏まえた上で「日本のアニメは何がすごいのか」と、問い直す必要があるのかもしれません。

アニメ産業の実態という意味で、新書ながら丁寧にそして緻密に綴られた良書です。