ある意味で本書はエポックメーキング的な本です。文庫が1997年出版、当然ながら絶版ですがAmazonのマーケットプレイスとかで買えます。それこそ、全盛期の小室さんについてはインタビューやテレビ等で散々取り上げられましたが、ブレイク前。特に、デビューまでの経緯が克明に綴ってある。それが最大の魅力。小室哲哉どう誕生したのか、両親や友人、そしてTMネットワーク結成秘話。たぶんこの先も語られる事の無い無二の本だと思います。
●大阪万国博覧会であの運命的な出会い。
小室さんがシンセサイザーとの運命的な出会いをしたのは、12歳の時に両親と行った大阪万国博覧会での事だったそうです。初めて聴いたシンセサウンドは富野勲さんが12チャンネルステレオを駆使したオリジナル曲だった。そして、家にあったエレクトーンなどを売却して勝手に自宅にシンセサイザーを購入した。それから取り憑かれるように、楽曲を作って行く事になる。●小室哲哉にとっての作曲。
小室さんは今も当時もそうですが、色白でやせ形。友人曰く、イジメの対象となっても不思議な存在ではなかった。しかし、小室さんは友達の間で独自のポジションを構築していたそうです。学生時代の小室さんを物語るエピソードとして、音楽の作曲の話があります。当時、音楽の事業の一環として、作曲の課題があったそうですが、当時からピアノを得意としていた小室さんは、友達から頼まれるがままに大量の作曲の依頼をされていた。最終的にはクラスの殆どの課題を小室さんが1人でやっていたそうです。でもその事はのちのちになるまで分からなかったと、当時の担当は言います。小室さんは個人の能力に応じて曲の完成度を変えていたそうです。これは高校生の時の話です。●母親への手紙。
当時、ミュージシャンになりたかった小室さん。しかし90年代のブレイクとは考えられないほどプロへの道は険しかった。就職をしない息子を心配して、小室さんのお母さんは手紙を渡した、そしてその返事は以下のようなものだったそうです。手紙読みました。
だけどほんとうに何も気にしないで何もわかってないと思うのですか?
もうすべて降参したいくらい、わかっているし、苦しんでいます。やり直せるものがあるなら、ゼロからやってみたいなんて、夢の話です。ほんとうにもうこれ以上心配は、かけたくないし、苦労もさせたくないし、いつか喜んで誇りをもってもらえるようにと毎日がんばっているのです。そして1日としてムダに生きてはいないつもりです。
(中略)
あと仕事のことは、どうして内容でみてもらえないでしょうか?
仕事はハデさではなくぼくの音楽が3.4年前どれくらいの差があると思います。?
いいものは必ず認められるし、長い間、やっていけます。うわべだけの仕事では、30越したとき、もうほんとうにどうしようもないのです。
(中略)
とにかく信じると信じないのは実績だと思うので、とにかく、やるしかないのですが、ぼくは絶対成功できたらお母さんの力が大きいと思うし、うらぎるつもりはいです。
とにかく今の状態から生活をふつうの生活にもどしたら、すべてがパァになってしまいます。少なくともあと半年から1年は、準備期間なのです。だから逃げるとかではなく、秋には、どこかに出ようと思ってます。そして、成功したらもどってくればみんな安心なのではないかと思います。
あと女性のことは、ほんとうに頭の何パーセントもしめていませんので、仕事のことだけです。とにかく他はめちゃくちゃで社会性になんの信用もないかもしれませんが、音楽ではもう社会的信用でもうやっているのでかってに進路を変えたり、やっぱりやめますとかは、してはいけないことなのです。
●晴美ちゃんの死。
小室さんが学生時代に親しくしていた女性である晴美ちゃんという人物。喫茶店に集まっては、日が暮れるまで音楽談義にあけくれていた。音楽の事、そして音楽家としての夢を語った日々。そして、それは小室さんが23歳の時に訪れた「晴美ちゃん」の死だった。本書によれば、自殺だったらしい。お父さんが亡くなって、そのショックからの事だったそうです。そして、幻のスペシャルサンクスとして「晴美ちゃんに捧ぐ」という言葉。結果的にクレジットされる事は無かったけれど、小室さんにとって彼女の死は大きかった。●そしてTKへ。
ボクが全盛気の小室さんを見て「何か寂しそうな人」だと印象を受けていました。お金も地位もある。名声も得た、しかしどこが寂しそう。ある人の話によれば、お金を使わなければ人が去って行ってしまう。そういう思いがどこかにあったそうです。ただ、本書を読めば分かるように、天才的な能力とは別に、小室さんはプロを目指して一つ一つの階段をのぼっていった。ただ、その先に何があったのか、他人であるボクには分からない。ただ、音楽という一筋の道に対して、プロという言葉が小室さんには似合ったりする。小室哲哉の美意識、そういう事なのかもしれない。