1980年代に執筆され、1986年に出版されたソニー創業者の一人である盛田昭夫氏の本です。簡単に説明すれば、ソニーの前身である東京通信工業を井深大と共に創業した人です。今でこそソニーは大企業ですが、その当時は戦後間もない頃で零細企業の一つでしかなかった。そのソニーを躍進させ、トランジスタの開発、1968年トリニトロンカラーテレビ、そしてiPodの原型である「ウォークマン」を1979年に発売し世界をあっと脅かせた。アップルの元CEOである故スティーブジョブズ氏も尊敬する経営者の一人として挙げている人物です。盛田さんの凄さは、商品の開発という点ではなく、営業という点にあると思ってます。それは本田の本田宗一郎氏と比較されますが、まだ小さいソニーを世界に売り込むために、渡米し、世界でソニーを売りまくったという点です。まだ日本製品が粗悪品だと思われていた時代に、ニューヨークの一等地5番外にショールームをオープンさせた。ある意味で今の日本製品が「高品質」だと世界で思われている所以は盛田さんにあるのかもしれません。

本書はそんな盛田氏の半生を綴りながら、ソニーのあり方や経営について綴ります。
今でこそソニーは落ちぶれた企業であり大赤字を出している企業ですが、これは有名な設立趣意書にあるるように「自由闊達なる理想工場の創設」という言葉。それを今の経営陣は知っているのか?とも思います。今の企業が短期的な利益を追求するのに対して、盛田さんは長期的な利益こそ会社の重要な柱だと言います。アメリカ式の経営、そして日本式経営の対比が面白いです。この本が1989年に出版。まさにバブルに沸いていた頃に出版された事は驚かされます。ある意味で盛田さんはバブルを批判しているわけです。

勿論、本書の出版から20年以上経ったているので、事情は異なります。イノベーションのジレンマという言葉も当時は無かったし、ブルーオーシャンやFREEといった概念も無かった。そもそも端末自体がネットに繋がるとは誰が予想したのか。ただ、この本は根幹的な部分では普遍だと思います。

ただ、Amazonで原書が流通しているのに、今のタイミングで何故に新版を出したのかは謎です。しかも内容もそのまま。うまくエッセンスを活かして、iPhoneやFREEなどのビジネスモデルそして、今のソニーなどを絡めて再編集すればもっと良かったと思います。450ページを越えるので少しハードルは高いかな?