まず感想を率直に言えば、良かった。面白かったです。2時間とちょっとの映画なので、なかなかの長編ですが、心温まる物語でした。24万語という途方も無い言葉。そして15年という歳月をかけて完成された辞書。それを作った男の物語です。普段なら、ここで「あらすじ」「感想」と続く所ですが、ボクこの作品を見て思った事を項目別に書いてみようと思います。

●1.辞書って結構いいかげん。

これは以外でしたが、本作では何度も登場する「用例採取」という言葉。簡単に説明すれば、新しい言葉の使い方や意味を書いたメモのようなものです。例えば、新しく流行った言葉などを載せるために使います。で、実際の辞書製作の過程は本作とは違うかもしれませんが、割といいかげんっていうね。ボクは辞書って学者か何かに依頼して書いているのかと思ってましたが、それは編集者が割とささっと書いたものが載っていたりするわけです。「ブログ=ネットに公開される日記の事」みたいなね。

●2.林香具矢(宮崎あおい)と馬締光也(松田龍平)の関係がよく分からない。

本作の主人公で辞書製作に命をかける青年である馬締光也(まじめみつやと読む)が住んでいるボロ家。その大家のおばちゃんが高齢のため、一緒に暮らす事になった林香具矢という女性がいるわけです。のちに馬締の配偶者となる女性ですが、これがかなり不思議です。最初から馬締の事をみっちゃんと呼んだり、馬締が送った達筆なラブレターを読んで(正確に言うと、達筆すぎたために板前のおじさんに読んでもらった)興奮して、言葉で言ってよねっ!というわけです。まだ何の交流もないですよ。チュッチュと手も繋いでない。結果的に2人は結婚するわけですけど、馬締はずっと辞書作りに没頭するわけです。それを献身的に支えるいい女、これが宮崎あおいなわけですけど、普通に考えたら、旅行にも連れて行ってくれない、遊びにも行かない男ですよ。愛想付かして別れるのが普通でしょ。

●3.Wikipediaが流行るとは思いもしなかった。

これは個人的に一番悩んだ点です。本作の説明によれば、辞書の製作が始まったのは世紀末(PHSが流行始めた時)で、完成したのがその12年後という設定になってます。つまり、完成した時には殆ど現代と変わりないという事です。携帯もあるしパソコンもある。Wikipediaだってあったと思います。そんな時代に辞書を買う人なんて奴なんて相当な文豪でしょう。出版社の経営が傾きつつある中で大々的に辞書を発表する出版社がどこにある。ある意味でそういう皮肉だったら面白いのだけれど、、。

●4.あたたかい物語。

結局、ボクは本作は辞書製作の物語であるものの、その人間模様を観察する話なんだと思いました。辞書の完成を見ずに天国に行った男も居た。別に題材は辞書でなくても、缶コーヒーでも良かったわけですね。その暖かい物語が面白いわけです。