子供をインターナショナルスクールに通わせるために、父親と残し家族がマレーシアに移住する。本書冒頭の話です。日本が少子高齢化で生産人口が減る一方で、海外移住をする人が増えている。確かに、井戸端会議で「ねぇ隣の山田さん、家族でシンガポールに移住したらしいわよ」「じゃ次はうちも考えないとね」といった会話を聞く機会は少ないですが、毎年2000人近くがシンガポールに移住しているそうです。



●誰もが移住する時代。



移住と聞くと、お金持ちのイメージがありますが、必ずしもそうではなくて、物価水準の差を利用して、年金生活者であっても海外に移住するケースや、子供の高度な教育を受けさせるための教育移住。人気なのは、シンガポール、マネーシア、タイといったアジア圏の国々。ある一定の資産を銀行などに預金すれば比較的簡単に移住権を獲得する事ができる。例えば、マレーシアは治安が良い、親日国である。日本食が食べられるお店が比較的沢山ある。といった点で人気集める理由となっています。



●日本の若者は「内向き」と「外向き」の二極化。



最近では、若者を象徴する言葉として「内向き」という事が言われます。ある調査によれば若者の約7割が海外赴任はヤダ日本にいたいと考えているそうです。その昔で言うソニーの盛田さんのように英語が分からなくても海外に行くというスピットは無いようにも思えます。しかし、本書では海外で活躍する若者の例が多数紹介されています。例えば、休学してバンコクに来た立命館大学の学生。タイのホテルに就職した24歳の女性の例。必ずしも全ての若者が内向きになったわけではない。



●本社機能を移転させる大企業。



パナソニックの材料調達部門。三井物産の取引部門がシンガポールに移転したり、新聞では衝撃的なニュースとして扱われましたが、日本の法人税は30%〜40%と世界的に見ても高い部類に入ります。例えば、シンガポールの法人税は25%。将来的にはもっと減らすらしいですが、簡単に言えば移転するだけで利益が数十%増えるわけです。最近の企業はグローバル化していて、海外売り上げ比率が50%を越える事も珍しくありません。そういった企業において、日本に本社を置く理由はないのです。アジアのハブは既に日本ではない。シンガポールに移転する事で、アジア各国でビジネスを行う事できる。税率を下げ、ビジネス環境を整備する。これを意図的に行っているのが、シンガポールなわけです。



任天堂も経営面ではシンガポールに移転しても不思議ではない。



投資家や富裕層がシンガポールに移転するもう一つの理由が税金の安さです。

例えば、日本ではキャビタルゲインに約20%、インカムゲインに約20%の税金が掛かりますが、シンガポールでは0%です。投資家にとってこれほどの喜びはないでしょう。



●日本は既に輸出国家できない?



これは結構衝撃的な話でした。よく、ニュース等では円安が輸出企業の利益を押し上げて景気が良くなるというロジックを使いますが、実は日本は既に輸出国家できないのです。例えば、日本の輸出依存度は11%にしかすぎません。ドイツが30%ですから、この差は歴然でしょう。お隣の韓国は43%ですらね。日本のGDPの殆どが国内消費やサービスによって生み出されているわけです。



●エイベックス松浦社長の発言。



この国はあえていうなら富裕層に良いことはなにもない。そして貧富の差を問わず老後の安心など今のところ何もない。安倍政権になったことで民主党時代に決まった富裕層への最高税率の増税はなくなると期待していたが安倍内閣支持率向上の狙いのためか、たいした増収にならないにも関わらず富裕層への所得増税は決まり地方税とあわせれば55%という税率が所得にかけられている。
と、フェイスブックのコメント。ちなみに、松浦社長は配当と合わせて6億円の収入を得ています。勿論、この発言がネットで荒れたのは当然ですが、やはり富裕層が海外に逃げる理由も頷ける。ボク自身はそれほど稼いでなけど、確定申告をしても「納税して頂いて感謝します。このお金を国民のために使います。」といった手紙一つないのはどうかと思う。払って当然なのでしょうか?



最後に著者は税金を安くすること、そして移民を受け入れる事が日本の緊急課題という言います。勿論、賛否もあるけれども。海外に移住する日本人、特に富裕層の気持ちも分からなくはない。海外移住やアジアを取り巻く最新の情報が知れたという点で面白かったです。