最近は、書店に行くと「アベノミクスは失敗だった」という本が平積みされています。つい1年前まで「アベノミクスで景気が回復する」という本が並んでいた事を考えると、この出版業界の移り変わりの早さ。で、本書は立ち位置としては、アベノミクス否定派です。1000円シリーズは基本的に外れが多いですが、この本はこの値段であれば納得できる値段です。ただ、新書と比べると詳細な図とかデータが乗っているわけではないので、あくまで入門編とお考えください。

●円安になって輸出は増えない。

これはボクも同意です。同様の事が三橋貴明さんも言っていますが、現在の日本輸出依存度は10%ほどしかありません。その上で円安になってもあえて日本で製造しようとい企業はそれほど多くはない。例外がトヨタですが、任天堂やソニーのように中国で製造する企業も多いですし、現地で生産した方が効率的だというわけです。円安で一部の企業が潤っている一方で、多くの庶民は円安によって物の値段が上がって困っている。

●消費税は逆進性。

去年だったか消費税が8%に上がったたわけですが、消費税は税金の取り方として不公平です。例えば、年収300万円の人と年収1億円の人では影響が全然違うわけです。300万円の年収の人は収入の大半が消費として消えるわけです。家賃とか食費とか。でも年収1億円の人は家賃が100万円だったとしても9000万円は残る。そういう意味でお金持ちほど税率が低くなってしまう。これはピケティ的に言う格差の「rとg」ですが、ピケティが言うように資産に対して課税した方が公平だとは思います。同じ趣旨の事を大前研一さんもずっと以前から主張してますね。

●アメリカの雇用の実態。

よく企業経営者が「雇用を流動化するために解雇規制を緩和しろ」という事を声高に叫ぶわけですが、これは企業側にメリットがあるわけで、雇用側に大きなメリットは無い。それの先を言っているのがアメリカなわけですが、雇用の流動化によって生まれたのは企業側の都合の良い非正規労働者の増大です。昔のアメリカは違ったようですが、雇用の流動化が生むのは雇用の拡大ではなく企業の利益拡大です。

●そして日本は世界一。

色々と見て日本は日本人が思うようにポテンシャルを持っている。政治が正しくそして国民が正しい知識を持って行動すれば、日本は復活するというのが本書の趣旨です。1000円ですが、ストーリーもあってなかなか楽しめました。入門編としてもおすすめですし、これを踏み台にもっと深い本を読んでもいいと思います。